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――卸電力市場の問題は制度の不完全性が一番大きな問題なのか。

八田 もちろん、事業者に市場支配力を行使させないことが重要だ。この点は、繰り返しになるが、全面自由化前にはなかった改善勧告や改善命令などの監視制度や、取引実態を細部までチェックできる仕組みの導入や運用で、事業者側も見られていることを前提に行動するようになっている。監視精度をもっと上げるなどの課題はあると思うが、我々もここは粛々とやっていく。

 もう1つ、卸電力市場の問題として提起したいのが、将来の特定期間の受け渡しを取引する先渡市場が弱すぎることだ。

 スポット市場が当日の需給実態を反映するようになっても、高騰するときは高騰する。もともとボラティリティ(変動)は大きいのがスポット市場だ。

 そうした日々の価格変動リスクをヘッジする方法は2つしかない。常時バックアップを含む相対取引か、先渡や先物といった将来の価格を固定する市場取引だ。

 先物市場の創設は現在議論が進んでいる最中だが、先渡市場は既に存在しているにもかかわらず取引量が総電力需要の0.002%しかない(2017年10月時点)。スポット市場の1000分の1にも満たないというのが実態だ。

市場分断リスクを抑える

――先渡市場の活性化は、昨年10月や今年1月の有識者会議(監視委員会の制度設計専門会合)でもテーマに挙がった。これまで、なぜ使われてこなかったのだろう。

八田 現時点では市場分断リスクが大きな障壁になっている可能性がある。

 スポット市場の取引量が増えるに連れ、スポットの価格変動リスクを深刻に受け止める事業者は売り手、買い手ともに増えていると思う。先渡市場への潜在ニーズは高まっていると見ている。

 一方で、周波数が異なる東日本と西日本間は市場分断が常態化している。北海道・本州間も多い。エリアをまたいだ取引が増えている現れだが、全面自由化後にこれほど頻繁に市場分断が発生する事態は誰も想定していなかっただろう。

*編集部注:先渡市場で約定した電力はスポット市場を経由して受け渡しがなされ、約定価格とシステム価格(全国価格)との差額を精算する。エリアをまたいだ受け渡しの場合、連系線制約から市場分断が起きると、売り手と買い手で異なるエリアプライスでの精算が追加され、両者の約定価格に差が生じる(価格を固定できない)。現行制度では市場分断時の価格をヘッジできないため、事業者が損失を被るリスクがある。

 そこで、監視委員会としては活性化策の第一弾として、先渡市場の単位をいくつかに分ける案を検討していきたい。現在は全国で1市場だが、市場範囲を「東日本」と「西日本」の2つに分ける。あるいは「北海道」も分けて3市場とする案もあり得る。

 売買入札をそれぞれの市場範囲内で実施し、それぞれのエリアプライスを基準に精算する。市場分断のリスクを最小限に抑える考え方だ。詳細については今後、有識者会議で詰めてもらう。

――市場はどう変わるか。

八田 欧州などの先行事例からは、先渡市場というヘッジ手段が発達すれば、スポット取引も大きく増えるという循環が生まれてくる。それまでの相対取引が先渡市場にシフトするインセンティブも出てくる。

 先に触れた需給調整市場やインバランス料金精算制度がきちんと設計されることと合わせて、先渡市場も使いやすくなれば、市場取引は爆発的に増えていきますよ。逆に言えば、先渡市場が十分発達していない中、スポット市場だけでここまで成長したのが不思議なくらいだ。大手電力にも安心できる価格で固定できるなら、先渡市場に売りたいというニーズは出てくるだろう。

 先渡市場活性化の意義は限りなく大きいと考えている。

八田 達夫(はった・たつお)
電力・ガス取引監視等委員会委員長
1943年生まれ。66年国際基督教大学卒業、71年ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了。経済学者としてジョンズ・ホプキンス大学教授、大阪大学教授、東京大学教授、政策研究大学院大学学長などを経て、2015年9月に電力取引監視等委員会(現 電力・ガス取引監視等委員会)の初代委員長に就任