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 1社独占のもとでは、自社の意思で自社の供給量を増やすことができ、より高い価格で、より大きな電力供給が可能となる。独占事業者は、自身で固定費を容易に回収できる価格水準をつくることができる(この場合、総括原価方式は価格の上限を規定する仕組みとして機能する)。

 しかし、自由化はそうした状況を許してくれない。価格競争が激化し、確保したい生産者余剰が切り詰められていく。その結果、グラフ1の状況は固定費の回収が確約されないグラフ2の状況に近づく。市場水準は価格P1を下回る価格P1’に収束する。

電源の固定費回収の確実性が減る
電源の固定費回収の確実性が減る
グラフ2●自由化の下での価格形成(出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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固定費の回収予見性を高める容量市場

 こうなると、限界費用(燃料費相当)が割高な電源は固定費の回収機会が減り、限界費用が安い設備でも固定費の一部を回収できなくなるおそれがある。

 グラフ2は1つの価格水準で説明しているが、実際の卸電力市場は毎日、30分のコマごとに価格が変動する。価格水準や価格変動に応じて、それぞれの電源が卸電力市場で回収可能な固定費は変わってくる(「廃棄すべき発電所を温存する“新市場”」参照)。

 市場価格が上昇し、限界費用より高くなった時点でタイムリーに運転できる電源であれば、固定費回収の機会に恵まれやすい。一方で、価格水準や価格変動に応じてタイムリーに運転できない電源は、固定費の回収機会が減っていく。

 限界費用が高い石油火力やLNG(液化天然ガス)火力は、市場価格の水準が高い状況、つまり価格高騰が発生する頻度やその水準次第で固定費回収の度合いが決まることになる。固定費回収の見通しは市場の動向次第となり、容易には見通しがつきにくくなり、将来に向けた投資判断が難しくなる。

 そこで、固定費回収の手立てとして、kWh当たりいくらの売買と並行として、発電設備の発電能力1kW当たりの価値を明示的に売買する仕組みとして導入することになったのが容量市場だ。

 だが、見通しがつきにくくなるとしても卸電力市場で固定費がまったく回収できなくなるわけではない。限界費用が安い(卸電力市場で儲けが出やすい)原子力や石炭火力は、容量市場立ち上げ後も固定費回収の主要な舞台は卸電力市場になるはずだ。

 そこで、容量市場を通じて固定費の一部を回収することになったら、卸電力市場ではどのような条件や状況が必要かを考えてみたい。

 グラフ3では、想定される期間の平均費用(固定費も含めた単位あたり費用)曲線を追加した(*1)。

*1 経済学的にはこの最低点を限界費用曲線が通過する。

電力需要(供給量)が増えれば固定費回収が可能に
電力需要(供給量)が増えれば固定費回収が可能に
グラフ3●固定費を回収できる価格水準(出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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 仮にこの平均費用曲線と限界費用曲線(供給曲線1)が交わることで決まる供給量Q2を生産することができれば、発電事業者は固定費を限界費用で回収できることになる。また、Q2以上の生産量を確保できれば、競争環境下にあっても収益を生む環境になる。事業会社を継続的に事業を運営するには、こういった価格水準が一定程度見込まれることが必要だ(*2)。

*2 電力の制度設計を議論している制度検討作業部会の資料には、「発電の投資回収の予見性を高める施策として、海外では容量メカニズムのほか、人為的に市場価格(kWh価値)を大幅に引き上げる(スパイク)手法が存在する。また一部の国では投資回収の機能を、kWh価値を取引する卸電力市場のみに委ねる国も存在する。理論上は、いずれの手法でも総コストは同じ値に収れんする、もしくはリスクプレミアムなどの金利分、容量メカニズムは安くなると考えられる」といった解説がたびたび登場する。総コストに見合った市場価格(平均費用=限界費用)は存在するが、そこに「収れんする」という明示的な価格機能は、経済学的に考えても存在しないのではないか。これが本稿の問題意識である。

 グラフ3を見ると、平均費用に見合う新たな供給量はQ2で市場価格はP2になる。この均衡価格P2では、生産者余剰①(黄色部分)はより大きくなり、グラフ2の価格水準では回収できなかった固定費回収が可能になり始めることになる。

 問題は、その結果、消費者余剰②(水色部分)の面積が狭くなることだ。さらに、①と②の合計面積である社会的厚生も小さくなる。このままだと、社会的に決して好ましい価格水準とはいえない。発電事業者側の固定費回収が優先されるあまり、社会的厚生が小さくなっては消費者メリットとのバランスが悪くなる。