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 この点は、容量市場を導入するにあたって政策当局も意識しており、容量市場によって将来に渡って安定的に供給力が確保できれば、卸電力市場の価格が低下したり、安定化したりして消費者余剰が回復すると説明している。

 仮に容量市場の導入効果によって卸電力市場の価格が下がるのだとしたら、これは供給曲線がどう変化したときに実現するのだろうか。

 1つは、供給曲線の単純な右方シフトだ(グラフ6)。

ベース電源の投入が増えれば電力価格は元に戻る
ベース電源の投入が増えれば電力価格は元に戻る
グラフ6●容量市場効果で供給曲線が右方シフトした場合の価格形成(出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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 つまり、容量市場効果として限界費用が安いベースロード電源の供給力が増えれば、供給曲線が供給曲線2'にシフトすることになり、容量価値を受け取る前の価格水準P1'を回復する。

 これにより、消費者余剰は回復するが、社会的厚生は減少している。生産者余剰が減少するからだ。

 発電事業者側から見ると、容量価値による費用補填で生産者的には一定のバランスが取れるが、供給曲線1から供給曲線2’へのシフトで失う価値と容量価値による費用のメリットを比較することになる。はたして、容量価値を受け取ったからといって、発電事業者は積極的に供給曲線を右方にシフトさせるようなベース電源の市場投入を行うだろうか。

 もう1つのアプローチは、ミドルやピーク電源のように、限界費用が比較的高い電源を中心に供給力が強化されるケースだ。

 この場合、グラフ7のように供給曲線2'が緩いカーブになることで、価格水準がP1'に戻る可能性がある。

ミドル/ピーク電源の投入が増えれば電力価格は元に戻る
ミドル/ピーク電源の投入が増えれば電力価格は元に戻る
グラフ7●容量市場効果で供給曲線のカーブが緩やかになった場合の価格形成(出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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自然に卸電力価格が下がる理由はない

 しかし、社会的厚生はグラフ6のケースと同じで、発電事業者は生産者余剰の減少分と容量価値による費用補填分を合わせて収益を検討することになるだろう。

 問題は、グラフ6や7で見たような供給曲線のシフトや変化が本当に起きるかだ。現在の容量市場の議論では、この点はなぜか信じて疑わない話になっている。だが、どうしてそのようなことが保証されるのだろうか。

 グラフ4のケースで説明したように、電力ビジネスほど供給力の調整が容易にできるビジネスはない。他の産業で生産調整を行うのは大変だが、市場支配力を持つ旧一般電気事業者なら、30分単位で瞬時に供給力の調整が可能なのだ。

 発電事業者が市場支配力を持っている現実にあっては、少なくとも容量価値のメリットを受けた発電事業者が、市場で必要とされるだけの電源を限界費用の安い順から必ず投入する仕組みを整備、担保できなければ、小売電気事業者、ひいては需要家の負担が増えるだけになりかねない。この点の議論が決定的に不足している。

 供給力が不足しているとは考えられない現時点においてさえ、市場が異様な高騰を見せているという現実を忘れてはならない。

 今回、経産省は容量市場を含む新市場・制度について、関連事業者だけを対象にした意見募集を行っている(1月26日まで)。本来は、電気の需要家である国民の利益になることを説明できるだけの根拠と材料をそろえて、広く国民から意見募集(パブリックコメント)を行うべきだったのではないだろうか。