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 同一の価値を持つ商品を扱うそれぞれの市場や仕組みの間に仮に価格差(歪み)が生じた場合、市場関係者は何らかの理由があると考える(例えば、通貨の信用力の差や、債券発行体のクレジットや流動性の違いなど)。そして、割高なほうを売り、割安なほうを買う。これは、市場価格が形成される中で健全かつ合理的な経済行為であり、裁定行為(アービトラージ)と呼ばれる。また、そうしたことが求められるタイミングを裁定機会という。市場参加者は絶えずこの裁定機会を意識している。

 図2は本来的かつ自律的に発生、運営される市場間の関係に着目して、裁定機会を緑色の矢印で示した。これらの関係性は一物一価の法則に基づいて、参加者の需給や相場観が相互に作用しながら価格形成されていく。本来的かつ自律的とはそういう意味だ。

連系線など物理的制約が裁定機会を生む
連系線など物理的制約が裁定機会を生む
図2●適正価格を求める自立的な市場間裁定の機会(出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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裁定は市場間の歪みを調整する正当な行為

 本コラムでは、市場をつくる上で避けて通れない観点として、一貫して電力の「適正価格」を希求する行為を強調してきた。適正価格こそ、次世代を築く産業や技術を生む基盤だと市場関係者は考え、その実現を期待している。健全な価格シグナル機能を市場に求めるスタンスである。

 図2では、本来的な裁定機会に加えて、物理的制約を回避するための裁定機会をオレンジ色の矢印で示した。電力という財・サービスは、特定の資産(発電設備や連系線・送配電網など)や、それらのオペレーションがあって初めて運営が可能になる。

 日本の電力市場は、長距離くし形と呼ばれる系統連系線の物理的制約を受ける。連系線容量が電力流通の制約要因となり、エリアごとに異なる価格が発生しうる(市場分断)。あるいは、突然の電源脱落や送電線トラブルが生じれば、停電も起きうる。こうした要因で発生する制約は、電力市場の場合、少なくとも短期的には解消しがたい。

 前日スポット市場だけでなく、先渡や先物にもエリア間で価格差が生じうる。そのため、価格差を交換し合う差金決済取引(CFD:Contract For Difference)の仕組みも検討が進んでいる。

 これらは物理的制約を乗り越えるための経済行為であり、れっきとした裁定取引の1つである。物理的制約を受け入れざるを得ない市場参加者の誰もが歓迎する仕組みだろう。現状の制約を乗り越えて適正な電力価格を求める行為と言える。

 だが、日本の電力市場においては物理的制約だけが制約ではない。新たな市場の創設や制度導入に伴い、図3で示した「制度的制約」に起因する裁定機会の問題が加わることになる(赤色の矢印が裁定機会)。

追加的な政策が新たな制度的裁定機会を生む(赤い矢印)
追加的な政策が新たな制度的裁定機会を生む(赤い矢印)
図3●人為的な新市場が市場全体に与える影響(出所:日経エネルギーNext電力研究会)
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