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 火力発電設備の機種や性能にもよるが、蒸気タービンの場合はいったん火を落とすと、稼働(水を沸騰させる)させるまでに数時間から場合によっては2日程度かかる。また、起動には沸騰させるまでの燃料費など余分なコストもかかる。だから、気象条件などによって急に需要が増えても、いったん止めたBS火力を稼働させるインセンティブは働きにくいという。

 問題は、大手電力が何を基準にBS火力を決めているかだ。BS火力が増加傾向にあることは先の記事で指摘したところだが、仮に大手電力が自社需要の減少に合わせてBS火力を増やしているとすればどうなるだろうか。

 現在、大手電力と新電力は熾烈な顧客の争奪を演じている。だが、大きな傾向としては、大手電力から新電力に需要家のシフトが進んでいる。

 自社需要を基準にしたとき、大手電力にとっては供給力の過剰が急速に進行していくように見えるだろうが、国内需要全体がそこまで落ち込んでいるわけではない。自社の需要を満たすことを優先してBS火力を決めているとすれば、相対的に供給力不足に陥ることになる。これが、売り玉が大きく増えない理由になっているおそれがある。

 発電事業者から、JEPXのスポット価格を見ていても将来の投資の見通しを立てにくいとか、固定費の回収にメドが立たないといった声をしばしば耳にする。発電事業者の立場に立てば、もっともそうな話に聞こえるが、本来の市場機能に対する理解不足から生じる弱音にも受け取れる。停止しないで発電した電力を市場に出せば売れていた可能性があるためだ。全国規模で見れば停止を決めたBS火力も有効活用できたかもしれないのだ。

収益の安定化に適している先渡市場

 スポット市場の価格変動と価格水準には、金融の世界で言うところの「オプション価値」が内在し、それがkW価値に相当するという解説を以前、「廃棄すべき発電所を温存する“新市場” 容量市場を金融理論から読み解く」で試みた。

 つまり、石炭火力発電のように、kWhあたりの電気を発電するコスト(限界費用)が低い電源や、市場価格の変動に応じて発電したり、休止したりできる柔軟性の高い電源ほどオプション価値が高く、固定費の回収機会が多いという話をした。

 kWh価値を売買する市場機能そのものに、kW価値が内在しているのだ。そして、スポット市場だけでなく、kWh価値を取引する先渡市場や先物市場にも同じ市場機能が内在していることを関係者にはよく理解していただきたい。

 BS火力は1週間単位で決める。つまり、1日単位の取引であるスポット市場では市場投入を判断しにくい電源であっても、週単位や月単位の取引を約定できる先渡市場をうまく活用できれば、収益機会を増やすことも可能だ。そうすることで、固定費を回収しやすくなり、投資判断もしやすくなるはずだ。

 先渡市場はJEPXに既にある。スポット市場に比べて、これまではなぜか閑古鳥が鳴いているような状態が続いている。だが、先渡市場なら一定期間にわたる売買を固めることができるため、日々の値動きに左右されにくい安定的な取引が可能になる。