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 近年、行政、健康保険組合、大学研究機関、さらには産業界を巻き込んで「健康寿命の延伸」「予防医療の促進」などの研究が盛んに行われている。その背景にはデジタル技術の進展によるPHR(Personal Health Record)、EHR(Electronic Health Record)をはじめとするヘルスケアデータの取得環境の整備がある。しかし、その研究領域はサプライサイド(医療サービス提供サイド)のものが多く、一般生活者(需要側)の研究はあまりなされていないように見える。

 知り合いの医療関係者からは以前より、テレビの情報番組が医療関連のテーマを取り上げた後に、症状を自覚した患者の通院が増えるという声を聞いていた。そこで、そうした各種の情報提供が一般生活者の行動に影響を与えると仮定して、影響の強い情報提供のあり方を検証。プロトタイプながら、一定の精度・説明力を持つ数理モデルを構築した。本稿では3回に分けて、その概要を紹介していきたい。

テレビや新聞の健康情報が行動を喚起する

 まず、図1に、重い症状を自覚していない一般生活者の行動喚起パターンを示す。これらの人々に健康に関連する行動を起こさせる情報は、報道、記事、広告という形を取ってテレビや新聞などのマスメディア経由で提供されることが多い。その中で、より大きな効果を持つ情報の提供形態を発見するため、医療情報総合研究所(以下、JMIRI社)が提供する匿名化された処方箋データと博報堂が持つコミュニケーションデータ(広告、テレビ報道・新聞記事に関するデータベース)を用いて、数理モデルを構築した。

図1●ヘルスケア行動の喚起パターン
図1●ヘルスケア行動の喚起パターン
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 分析対象とする疾患は、報道・広告ともに十分な情報露出が確認できることを前提に、内科系から「逆流性食道炎」、外科系から「神経障害性疼痛」を選んだ。情報量の多い逆流性食道炎は、2011年から3年分の処方箋データを使ってプロトタイプの行動モデルを開発。続いて、そのモデルの妥当性を検証するために、神経障害性疼痛のモデルを構築した。

 一般生活者の行動は、情報提供の影響を確実に評価できる新患に限定した。情報提供の前から通院している患者は、その影響が限定されると考えたためである。