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多職種連携などの仕組みが技術的には実現可能であるにも関わらず、なぜ日本ではなかなか浸透しないのか。法令やガイドラインが障壁となっている部分はあるのか――。第2回の座談会ではこうしたテーマを議論するに当たり、医療分野でのモバイルやクラウドの活用にかかわる法令やガイドラインの国内外の動向を、米Microsoft社が紹介した。

 パネリストの1人として座談会に参加した米Microsoft社 Worldwide Public Sector & Industry, Government Affairs DirectorのSteve Mutkoski氏は、モバイルやクラウドの活用に関する法令やガイドラインへの対応に関する業界動向を紹介した。同氏は、Microsoft社でヘルスケア関連の政策渉外の責任者を務める。

Microsoft社 Worldwide Public Sector & Industry, Government Affairs DirectorのSteve Mutkoski氏(写真:加藤康、以下同)
Microsoft社 Worldwide Public Sector & Industry, Government Affairs DirectorのSteve Mutkoski氏(写真:加藤康、以下同)
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 医療・ヘルスケア分野でのモバイルやクラウドの活用は「技術の話である以上に、公的政策にかかわる話」。Mutkoski氏はまず、こう指摘した。公的政策、すなわち法令やガイドラインに関しては、各国で同じような議論とプロセスをたどっているという。

 医療・健康情報の共有にモバイルやクラウドの技術を使うことが、医療へのアクセス向上やコスト削減につながることは広く認識されつつある。その一方で、医療・健康情報は「個人にとっても国家にとっても、最も機密性の高い情報」(Mutkoski氏)という側面があり、それゆえに「誰がそのデータにアクセスするのか、どこにデータが格納されるのか、どのようなセキュリティーでデータが守られているのか、といった点に関する懸念を払拭しなければならない」とMutkoski氏は指摘する。

 そのため、どの国でも医療分野でのモバイルやクラウドの活用にはためらいがあり、「我こそは先に、という国は存在しない」(Mutkoski氏)。結果として、モバイルやクラウドの医療応用に関する各国の法令やガイドラインの多くが、紙ベースでやりとりされる情報を前提とした旧態依然のもの。デジタル化という時代の流れが、十分に反映されていないという。

法令改正に動いたベルギーやドイツ

 それでも、欧州などでは法令やガイドラインを時代に合う形に改める動きが出てきつつある。その事例としてMutkoski氏は、ベルギーやドイツなどの取り組みを紹介した。

 ベルギーでは従来、患者のカルテはそれが作成された施設で保管することが求められていた。紙のカルテが「段ボールに入れられ、医療機関の地下室に積み上げられる」(Mutkoski氏)ような保存方法だ。「これが安全な情報管理の方法かと言えば、そんなことは決してない。情報へのアクセス性が悪いことに加え、盗難などの犯罪や洪水などの災害のリスクもある」とMutkoski氏は話す。こうした問題から同国では、患者のカルテはそれを作成した組織が管理することとし、管理場所は問わないという形に改めた。

 ドイツでは、従来の法令では、医師がクラウドサービスを使うことは患者の情報を非合法に開示することに相当し、刑事責任の追及の対象となった。この法律は50年以上前に作られたもの。同国の規制当局も最近では、機密性の高い情報もクラウドで安全に保存できることを認識するようになってきたという。適切なセキュリティーとプライバシー対策がなされている場合は、クラウドを利用してもよいことを明文化した法案が目下、協議されている。

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 欧州では、医療・健康情報の扱いに関する議論に患者団体が必ず加わっている――。こんな特徴もあるという。医療・健康情報の利活用については「就労や保険加入などでの差別につながらないと保証されるのであれば、自分の情報を次世代のために活用してほしいと望む患者は少なくない。規制当局は『患者を守る、そのためにデータを守る』という方向に行きがちだが、実は患者自身はそれとは異なる意見を持っている」とMutkoski氏は説明する。バランスの取れた法令やガイドラインを策定する上では、関係するステークホルダーがきちんと議論に加わることが重要との指摘だ。