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アルファ碁の開発企業も参入

 ブロックチェーンの医療応用の具体的な事例を見てみよう。国家行政全般にわたりITを活用していることで知られる北欧のエストニアでは、患者の医療・健康情報記録(Electronic Health Record;EHR)にブロックチェーンを応用。医療機関をまたいで患者の情報を共有できるようにし、ケアの質の向上などに生かせる仕組みを整えている。

 米国では、マサチューセッツ工科大学(MIT)がブロックチェーン技術に基づく電子カルテ「MedRec」のプロトタイプを開発。個人の医療・健康情報や保険情報をブロックチェーンで管理し、受診時の保険適用範囲の確認などに利用するサービスを手掛ける企業も登場している。米食品医薬品局(FDA)とIBM社は、電子カルテや臨床試験結果、ゲノムデータなどの管理にブロックチェーンを活用するための協業を2017年に開始した。このほか米国では、医療用医薬品に個別の番号を付けてサプライチェーンを管理することを求める法律(DSCSA)の成立を受けて、医薬品の履歴をブロックチェーンで追跡する仕組みが提案され、実証実験が進んでいる。

 英国では、囲碁のプロ棋士を破ったことで有名になった人工知能「AlphaGo(アルファ碁)」を開発したDeepMind社(Google社傘下)が、ブロックチェーンの医療応用に取り組んでいる。患者データのブロックチェーンによる管理に向けて、国民保健サービス(NHS)との協業を2017年に開始した。

 日本でも、少しずつ動きが出てきた。ブロックチェーンの医療応用を目指す企業が増えつつあり、医療機関による取り組み例も登場している。佐賀大学医学部附属病院は2017年の医療情報学会春季学術大会で、個人のヘルスケアデータをブロックチェーンと分散ストレージ上に蓄積し、他のシステムと共有可能かどうかを検証した結果を報告した。

 国立保健医療科学院の水島氏は、ブロックチェーンを使って医療情報の閲覧権限を患者の意向に沿って動的にコントロールし、医療機関や救急現場で活用する仕組みの実現を構想している。障害やアレルギーを持つ子供に関する効果的な情報共有などに活用したい考えで、アプリケーション開発に着手。ゆくゆくは、地域の医療連携システムにも接続できる仕組みにしたいという。

 「ビットコインが、誰もが参加できるパブリック型のブロックチェーンを利用しているのに対し、医療では特定の利用者だけが参加できるプライベート型が使われるだろう。医療分野では、放射線画像のように容量の大きいデータも多く、これらすべてをブロックチェーン上で管理することは現実的ではない。ブロックチェーン上で管理する(閲覧権限などに関する)情報と、別個に管理する画像などの情報をひもづけるといったシステム構成が求められる」と水島氏は話している。