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「先進医療で有用性を示すのは不可能」

 ダヴィンチ手術では、内視鏡で得た画像を拡大してディスプレーに3次元表示し、術者はそれを見ながら手元のレバーを動かす。そして、連動するロボットアームを遠隔操作することで手術を行う。

 この方法では自然で鮮明な立体像や直感的な操作感が得られることに加え、「最も大きな違いは深部での操作。腹腔鏡手術では深い場所ほど(器具操作が)難しいが、ダヴィンチは近い場所でも遠い場所でも術者の動きが正確に反映される。手元を大きく動かしてもお腹の中では小さな動きに変換されるモーションスケーリング機能も、すき間が非常に狭い場所での処置などに役立つ」(絹笠氏)。こうしたメリットから、肛門近傍や前立腺の裏側など、従来はアプローチが難しかった場所にもダヴィンチならアプローチできるという。

da Vinciの動作デモ(インテュイティブサージカル合同会社が2014年10月に開催した説明会の様子)
da Vinciの動作デモ(インテュイティブサージカル合同会社が2014年10月に開催した説明会の様子)
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 絹笠氏の前任地である静岡がんセンターでは、同氏が主導して直腸がんのダヴィンチ手術を2011年~2017年に約630例実施しており、これは国内医療機関では断トツの数字。その結果をまとめたところ「実感以上に成績が良いことが分かった」と絹笠氏は話す。例えば、静岡がんセンターにおける直腸がん腹腔鏡手術後の排尿障害の発生頻度は8.1%と全国平均に比べて低いが、ダヴィンチ手術ではこれがさらに2.8%にまで下がったという。術中に開腹手術に移行せざるを得なかった症例はゼロ件で、術後の局所再発率も1%に抑えることができた。

 肛門の温存率も約90%に高まった。静岡がんセンターのように、肛門は残せないと他院で診断された患者が数多く訪れる医療機関の数字としては、非常に良好という。「ロボットを導入し技術が均てん化されることで、より多くの患者に肛門を残せるチャンスが生まれる。術者にとってはラーニングカーブ(習熟曲線)の立ち上がりが早いのもロボット支援手術の特徴で、高度な手術を早く学習できる」(絹笠氏)。

 こうしたメリットがある一方で、ダヴィンチ手術に広く保険が適用されるまでの道のりは長かった。従来はまず先進医療に承認され、そこで有用性を示した後に保険が適用されるというステップを踏んできた。だがこうした枠組みで既存技術に対するダヴィンチ手術の有用性を示すことは、非常に難しいと絹笠氏は指摘する。

 「ダヴィンチ手術に期待される一番のメリットは患者の予後改善、つまりがんを治すことであり、それを確かめるには3~5年間の経過を見ていく必要がある。その間ずっと先進医療で続けていくことは不可能に近い。腹腔鏡手術もその有用性については確たるエビデンスがなく、ダヴィンチ手術と比べる相手のデータすらしっかりしていない状況だ」(絹笠氏)。そのため、保険診療でなければ、有用性を示すための臨床試験をまともに組むことさえ難しいと絹笠氏は訴える。ダヴィンチを導入したものの、保険が適用されていない状態での運用を維持できず、ダヴィンチ手術を実質的に中止した医療機関も少なくない。