
今回の座談会を通して浮かび上がった未来への処方箋とは何か。それは、3つの「壁」と向き合うことではないだろうか。すなわち、(1)医療を担う各職種の役割の「壁」、(2)医療従事者と患者・生活者の情報共有の「壁」、(3)新たな仕組みの社会実装に向けた規制や持続性の「壁」、である(図1)。これらの壁をどう乗り越えていくべきかという議論を深めることが、未来を切り拓くキッカケとなりそうだ。
これ、本当に医師の仕事?
限られた医療資源を有効活用していくために向き合う必要があるのが、(1)の医療を担う各職種の役割の「壁」である。「医療ニーズが急増する一方で従事者は増えない。これが、2020年に向けた大きな課題。高齢化と少子化が進めば疾病構造も変わる。その状況に対応するためには、医療従事者の各職種の枠組みや連携の仕方を変えないといけない」(ファルメディコ 代表取締役社長で医師の狭間研至氏)。
介護領域でも課題認識は同様だ。「この先、介護人材の不足がかなり大きな課題になる。2025年には介護職員が38万人不足するとの推計もある。この需給ギャップを埋めなければ、社会は成り立たない。ライセンスを持たない人でも介護の一端を担えるような仕組みが必要だ」(日本介護福祉士会 会長の石本淳也氏)。
実際、現場では各職種の役割の境界線をめぐるひずみが生じているとの声も多く出た。京都大学医学部附属病院 医療情報企画部 教授の黒田知宏氏は、「これ本当に医師がやらないといけないの?」と疑問に思うことがよくあると訴える。「医師ではなく、薬剤師や看護師が各々の専門性で判断できる作業が多分にあると思う」(同氏)。ファルメディコの狭間氏も、薬剤師がより専門性を生かした働き方にシフトすれば、医師の負担が減ると語る。
現状では各職種の役割は制度上で明確化されている。例えば、医師法第17条の「医師でなければ医療を為してはならない」、薬剤師法19条の「調剤は薬剤師のみが行う」といった規定である。これらを含め、あるべき役割分担の姿を再整理していくことが求められそうだ。