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本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.100 No.5 pp.362-366に掲載された「電磁界シミュレーションと機械学習の融合によるパーソナル診断・治療の展望」の抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。電子情報通信学会の検索システムはこちら(「I-Scover」へのリンク)。

1.はじめに

 この30年の間、‘人’が電磁界にさらされた際に体内に誘導される電流(電界)を評価する技術は飛躍的な進歩を遂げた。これは、電磁界の人体への影響と関連した研究による功績が大きく、特に、1990年代後半からの携帯電話の爆発的な普及に伴い、数々の技術が生み出された。当該技術は二つに大別され、一つ目は医用画像に基づく数mmの直方体の最小要素(ボクセル)から構成される人体を計算機上で表現する技術(例えば、文献(1)、(2))、二つ目はそのモデルを構成する各ボクセルに人体組織ごとの異なる電気的特性を付与した電磁界計算である(例えば、文献(3)、(4))。

 医用画像からの人体モデルの構築は磁気共鳴(MR)システムの発展と歩調を合わせており、その性能が十分ではなかった2000年代前半には人体組織分類も一部手動による評価が必要であった。現在では、磁気共鳴(MR)画像の高品質化、及び医用画像処理の進歩とあいまって、フリーウェアなどを用いることにより頭部など限定された部位ではほぼ自動でモデル構築が可能となっている(5),(6)。電磁界解析分野の研究者からは、このモデルの構築こそが難しいのではとの意見を頂くこともあるが、複数のソフトウェアを併用することにより十分な専門的な知識がなくとも構築できる日が来た、あるいは少なくとも近付きつつあるとは言える段階にある。

 電磁界計算の進歩は、前述のとおり、新たな無線通信の出現によるところが多い。一般に、無線周波の医療応用はハイパサーミアなど高周波による温熱治療には用いられるものの(7)、個々の人体モデルが必要な場合は多くない。一方、無線電力伝送など中間周波以下の周波数帯(パルス波を含む)では、電磁界の電界と磁界を切り分けて考えることができ、比較的容易に計算することが可能である(8)。これまで人体のような電気的に不均質な媒質に対する電磁界解析には多大な時間を要していたが、不均質媒質に対するマルチグリッド法など高速解法の適用が進むにつれ、解決しつつある。この周波数帯における電磁パルスを用い、体内に存在する神経を非侵襲に刺激することにより、例えば、脳機能あるいは脊髄の診断、治療に用いることができる。特に、脳を診断あるいは治療の対象とした場合には、その組織構成の複雑さからも医用画像による個別モデル化が重要となる。

 一方、医療における問題点として必ずしも臨床数が多くなく、また、対象とする部位も同じではないため、所望のデータを蓄積することは容易ではない。しかしながら、シミュレーションにより仮想的な実験データを作成し、機械学習すればこの難点を解決できるはずである。本稿では、体外に配置した刺激装置からの電気あるいは磁気により体内に誘導される電流の評価法に関する最新の技術動向を紹介するとともに、機械学習と併用したパーソナル医療の展開事例を紹介する。