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 回帰する際には、入力と出力の表現法が問題となる。誘導電流分布の回帰では、入力されるMR画像も、出力される電流分布も、共にボクセル数の次元を持つ高次元データであり、直接機械学習の教師データとするには冗長に過ぎる。そこで頭部MR画像を(1)頭蓋表面が平らになるように正規化し、(2)頭部表面に配置したコイルの中心が原点となるよう並進し、(3)外部刺激用の8の字コイルの向きがy軸と一致するよう回転させる。MR画像中の頭蓋表面の検出は容易であるので、計算効率を大幅に低下させることはない。(1)~(3)の手続きにより、元画像の頭蓋形状と位置に関して正規化し、図3の②に示すような、頭蓋表面が平らに変換された画像を得る。その上で(4)画像をx-y平面で分割する(図3③)。コイルの位置と向きを基準として画像を変換するため、回帰への入力のうち外部刺激用のコイルの位置姿勢は入力する必要はなくなる。各患者についてコイルの位置と姿勢を変化させながらシミュレーションを繰り返すことにより、MR画像と誘導電流分布のデータの組を多数得る。これらデータの組を用いて、まずPCAによりMR画像パターンと誘導電流分布のそれぞれを低次元で表現する主成分を求め、次に、MR画像全体の主成分表現から、図3に示した各位置の部分画像ごとの誘導電流分布の主成分表現を推定する回帰機械を学習により構築する。

図3 機械学習のための前処理
図3 機械学習のための前処理
MR画像の正規化。①元のMR画像を、②頭蓋表面が平らになるように正規化する。その後③x-y方向に分割して複数の部分画像を得る。回帰は部分画像ごとに行う。
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図4 シミュレーションで計算した誘電電流分布と回帰計算した分布
図4 シミュレーションで計算した誘電電流分布と回帰計算した分布
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 図4に、ランダムフォレスト(13)を利用して、コイル中心直下の部分画像において誘導電流分布を推定した結果の例を示す。脳MR画像を灰白質や白質へと分割をすることなく、誘導電流分布を推定できている。図5のグラフは、横軸がシミュレーションにより推定した誘導電流分布の第一主成分の値を、縦軸が回帰により推定した第一主成分の値を表す。主成分の広い範囲において、シミュレーションで算出される値を正しく近似できている。このような回帰機械は患者ごとに最適なコイル位置を提案するような、パーソナライズされた治療支援システムの実現に有用である。そして、このようなシステムの実現が可能となることも、高精度・高効率なシミュレーション技術の成果の一つである。

図5 誘導電流分布のシミュレーション値(真値)と機械学習に基づく推定値の関係
図5 誘導電流分布のシミュレーション値(真値)と機械学習に基づく推定値の関係
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