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 量子ビットの規模として超伝導とほぼ並んでいるのが、イオントラップであり、メリーランド大のモンローのグループは、5-qubit で任意の量子回路を組み、小規模なアルゴリズムを実行している(24)。モンローは2015年にIonQ を起業している(14)。Microsoft Station Q は、まだ全くの未知数であるが物理的に頑強な量子ビットになると期待されるマヨラナ粒子を用いたトポロジカル量子計算(12)に絞って、Delft 工科大などとコンソーシアムを組んで研究を行っている(14)。半導体では原子レベルのドーピングや量子ドットを用いた方式が提案され、日、欧、豪などで実験されているが、詳細は最近の解説(18)、(25)を参照されたい。

 現在、量子コンピュータが注目されているもう一つの理由は、D-Wave が2,000-qubit の量子コンピュータを既に市販し、しかも、NP 困難な組合せ最適化問題を速く解くと喧伝していることである(26)。このD-Wave マシンは、超伝導量子ビットを2,000 個集積化してはいるが、量子ゲートは実装されておらず、門脇・西森の量子アニーリング(26)をハードウェア的に実行する専用機である。組合せ最適化問題を、イジングモデルという古典スピン(σi=±1) の多体系のエネルギーH=−Σi<jJijσiσjを最小化して基底状態を求める問題にマップすることができ、それを解く方法の一つが量子アニーリングである。問題はスピン間の相互作用を表すJijとしてプログラムされる。我が国で開発されたコヒーレントイジングマシンは、光パラメトリック発振器のポンピングを発振しきい値に下から近付けてゆくと最も損失の小さいモードで発振するという原理に基づいてHを最小化し、2,000 ノードの実験が行われている(27)。これらは、最小化しようとしているHをアナログ量として実現しているため、本質的にアナログ計算機であり、NP 困難な問題に答えを出しても計算量理論に反しないが、不可避な誤差によってどこまでスケールするか不明である。

 ファインマンが想起した量子シミュレーション(1)は、ディジタル量子コンピュータではソフトウェア的に実現される。現時点では比較的制御性の高い量子系である光格子中の中性原子やイオントラップを用いたアナログ量子シミュレーションの実験が盛んに行われている(28)。これはパラメータが比較的自在に変えられる量子物理実験であり、ハバードモデルによる高温超伝導の機構解明などが期待されている。これが、新しい電子材料の開発につながることを期待したい。