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日経Automotiveのメカニズム基礎解説「第17回:ディーゼルエンジンの排ガス後処理装置 複雑な3段システムでNOxやPMを無害化」の転載記事となります。

 NOxを還元する触媒としては、NOx吸蔵還元触媒と尿素SCRという二つの選択肢がある。端的に言えば、コストではNOx吸蔵還元触媒に、処理能力では尿素SCRに強みがある。

 NOx吸蔵還元触媒は貴金属を触媒層に使用するため、酸化触媒と同等以上のコストがかかるが、ランニングコストまで含めれば尿素SCRより確実に低コストだ。このため、ミドルクラス以下の車両ではNOx吸蔵還元触媒が主流である。だが、今後厳しくなる排ガス規制を考えると、NOx対策の主流は尿素SCRへと移っていきそうだ。

 NOx吸蔵還元触媒は、触媒の表面でNOxを捉えておく(図4)。触媒内にNOxが蓄積されたと判断すると排ガス中の酸素濃度を減少させる燃料過多の燃焼に切り替え、NOxを還元させる(図5)。理論上はNOxを完全に解消させることが可能だが、実際にはNOxの蓄積量は走行データからの推測でしかなく、還元も様々な条件の走行中に行う必要が出てくるため、効果を発揮させるのは非常に難しい。

図4 日産のNO<sub>x</sub>吸蔵還元触媒の担体
図4 日産のNOx吸蔵還元触媒の担体
セラミックス製の担体はフリーフロー型で、壁面にHCトラップ層とNOxトラップ層、NOx浄化層の3層の触媒が塗布されている。
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図5 日産のNO<sub>x</sub>吸蔵還元触媒を使った還元の仕組み
図5 日産のNOx吸蔵還元触媒を使った還元の仕組み
通常はリーンバーンで排ガス中に発生するNOxとHCを捕らえておく。一定量のNOxが蓄積されたと判断するとポスト噴射でリッチバーン環境を作り出し、NOxの少ない排ガスを触媒に当てることで、N2とCO2に変換して浄化させる。
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 尿素SCRは、排ガス中にNH3(アンモニア)を無害化した尿素水を噴射することでNOxと反応させ、N2とH2Oに変換させるもの(図6)。排ガス中のNOxに見合った尿素水を噴射する。排ガスを浄化する能力は極めて高い。還元のためにエンジンの燃焼を調整する必要はなく、走行にも影響を与えない。

図6 尿素SCRによるNO<sub>x</sub>還元のイメージ
図6 尿素SCRによるNOx還元のイメージ
DPFを通過した排ガスに尿素水を噴霧する。排気管を通過していく中で排ガスと交じり合い、セラミックス担体の触媒に到達すると還元反応を起こす。最終的には余剰分のNH3を無害化する触媒を通過して大気に排出される。
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 問題はシステムの搭載コストだ。尿素SCRは、SCR触媒の他、尿素水を蓄えておくタンクや供給用の噴射ユニットなどが必要になる。さらに、尿素水は2万kmの走行ごとなど定期的に補充するため、車両のランニングコストに上乗せされる。

 コストの欠点はあるものの、尿素SCRのNOx低減効果は非常に優れたものだ。極論を言えば、PMの発生を抑えてNOxを発生させても、尿素SCRでNOxを解消させることで排ガスは浄化できる。