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油圧変換でバルブを駆動

 可変バルブリフト機構の中でユニークな機構を備えているのが油圧制御型だ。カム山の動きを油圧に変換してバルブを駆動するシステムである。欧米FCA社やその子会社である同Alfa Romeo社が搭載している「MultiAir」が代表例だ。同機構を開発・供給するSchaeffler社は「UniAir」と呼ぶ。

 MultiAirは、SOHCながら、カム山が油圧ポンプを押して発生させた油圧により吸気バルブを駆動する構造を採る(図5)。具体的には、プランジャーとポンプの間には油圧を逃がすためのソレノイドバルブを設けた。カム山をトレースする油圧を制御することで、リフト量とバルブ開度を調整できる。

図5 油圧制御型の例(FCA社の「MultiAir」
図5 油圧制御型の例(FCA社の「MultiAir」
排気バルブはカム山が直接駆動し、吸気バルブ側はカムがロッカーアームを介して油圧ポンプを押し、発生した油圧がプランジャーを押してバルブを駆動する。
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 油圧の発生はカム山の形状に依存するものの、1回の吸気工程で2回バルブを開閉させるような、通常のカム駆動では不可能な複雑な動きも実現できる。実際、MultiAirは四つの動作モードをエンジンの負荷状態に応じて使い分けている(図6)。ただし、MultiAirは制御の自由度は高いものの、他の可変バルブリフト機構と比べると複雑で、コストが上昇することは否めない。

図6 MultiAirによるバルブリフト制御のモード
図6 MultiAirによるバルブリフト制御のモード
エンジンの負荷状態に応じて(a)~(d)の四つのモードを使い分ける。フルリフトはカム山そのままに油圧をバルブに伝えた場合。早閉じはアトキンソンサイクルを実現できる。リフト量を減らすことで開度も変化するが、リフト量のカーブはカム山に準じる。前半にピークをスライドさせたり、一度閉じてカム山のピーク付近でもう一度開けて脈動を利用したりするような使い方もできる。
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 この他、市販車にはまだ搭載されていないが研究が続けられているものもある。例えば、バルブ駆動システムとして、電磁弁を用いたカムレスバルブ駆動システムがある。これはリフト量やバルブの開度、タイミングなど多くの要素で自由度が高い。ただし、コストや質量面でまだ課題は残されており、燃費の改善効果との天秤にかけられながら実用化を検討しているところだ。