幸福度もそれによるメリットも定量化する
では、従業員の幸福度が高いと、企業にとってはどのようなメリットがあるのか。それを可視化すべく、前述のように、幸福度と従業員の生産性、あるいは幸福度と企業の財務情報といった相関を精緻に研究する動きが出始めてきた。
その一例が、2017年7月に設立された幸福度について研究を行う組織「ユーダイモニア研究所」による取り組みである。同研究所では、「従業員の幸福度と生産性の関係について明らかにしたい」(Chair and Trusteeを務めるヤフー 会長付の水野貴之氏)考えだ。具体的には、幸福度と企業の財務情報(株価や営業利益など)の相関関係を調べていきたいとしている。
ただし、こうした精緻な相関関係を調べるためには、幸福度自体を定量的な指標にする必要が出てくる。一般的な幸福学の研究では、アンケートによる調査が行われており、「アンケートでは謙虚な人は幸福度が低く出てしまう可能性がある」(前野氏)など、客観的に定量化できているとは言い難い。
そこで、ユーダイモニア研究所は、表情や音声、心拍、発汗量などのバイタルデータを使って幸福度を可視化することを試みている。例えば、ヘドニア(快楽の追求)と呼ばれる幸福状態にあるときは、「前頭葉に酸素量が増えることが分かっている」(水野氏)が、これを測定するためには大型のヘッドセットを装着する必要がある。より簡便に測定できる別の指標として、表情や音声などを使用できないか検証しているというわけだ。
将来的には、これらのバイタルデータを使って幸福度をリアルタイムに測定できるようにしたい考えだ。リアルタイムに測定できれば、あらゆる業務を見直すことが可能になると水野氏は見る。例えば、「朝8時半に多くの従業員の幸福度が下がる」というデータが得られたら、8時半に行っている朝礼を見直すこともできる。
幸福度を定量的な指標として、より簡便に測定しようという取り組みは他にも出てきている。例えば、日立製作所はスマートフォンに内蔵されている加速度センサーを使って、組織の幸福感を測定する技術を2017年10月に発表した。この技術は、2015年に日立ハイテクノロジーズが開発した幸福感を測定できる名札型のウエアラブルデバイスを、より手軽にスマホだけで測定できるようにした格好だ(関連記事)。