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「日経ものづくり」2014年11月号の事故は語る「Boeing787のLiイオン2次電池過熱、内部短絡が引き金の熱暴走か」を分割して再公開した記事の後編です。前編はこちら

接地が熱暴走の分かれ道か

 バッテリーが発熱する原因には、過充電、過放電、内部短絡、外部短絡などがあるが、異常発生前のバッテリー電圧が正常であることから過充電、過放電の可能性は低い。外部短絡の場合、外部抵抗が低ければセルの正極集電体がすぐに溶断するため高温にはならない。抵抗が高い場合は、J3コネクター部が焼損するが、回収したバッテリーにはそうした痕跡が認められなかった。こうした理由から内部短絡の可能性が高いと考えられる。

 運輸安全委員会は、「1つのセルが内部短絡によって熱暴走し、その熱が他のセルに伝播してバッテリー全体が焼損したのではないか」との仮定の基に、熱伝播の再現試験を行った。セル6に釘を刺して強制的に内部短絡させ、バッテリー全体の挙動を調べるものである。再現試験は、表の3条件で実施した。

表●運輸安全委員会による内部短絡試験
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 条件1では、短絡から15秒後にセル6がベントして火災が発生。さらに5分後にセル5がベントしたのを始め、わずか8分間で4つのセルがベントした*2。分解してみると、セル5、7、8に熱暴走の痕跡が認められ、セル6とブレースバーの溶着も確認された。アース線には200~600Aの電流が流れていた。

*2 条件1では、火災のために計測用の信号線が断線するなどしたため発火から8分間で試験を中断している。

 条件2では短絡から46分で全てのセルがベント。釘を刺した直後にセル6がベントして白煙が上がり、釘の温度が400℃以上まで急上昇。その後も温度は上がり続け、最大950℃にまでなった。条件1と同様にセル6とブレースバーの溶着が認められたのに加え、アース線は最大1630Aの電流が流れて溶断した。内部短絡でセルが過熱・膨張して、セル間のスペーサーが溶融し、ブレースバーやバッテリーケースとセルが接触すると、そのセルの電位は接地電位となって短絡した状態となる。すると、セルとバッテリーケースやブレースバーとの間に断続的に大電流が流れてアーク放電が生じ、一部が溶着するものと考えられた。

 一方、接地していない条件3では、セル6がベントして一時的な温度上昇はあったものの、他セルへの熱伝播は認められなかった。ブレースバーやバッテリーケースへのアーク痕なども確認できなかった。条件1と2で認められたコンタクターの開放もなかった。つまり、バッテリーケースを接地していると、熱伝播によるバッテリー全体の熱暴走が起こり、接地していない場合は内部短絡したセル以外に被害が拡大しなかった*3

*3 アース線の溶断については、Boeing社が正極と負極をアース線で短絡させてアース線に大電流を流す負荷試験を実施。その結果、約6000Aの電流が流れて瞬時にアース線の芯線が溶断した。この結果を基に、Boeing社は、ANA便のメインバッテリー事故について、「損傷の程度からアース線に流れた電流は6000A以下」との見解を示している。