ずれていた可動ベッド
事故調査部会が事故後の駆動装置を調べたところ幾つかの異常が見つかった。一目でそれと分かるのが、可動ベッドのずれだ。減速機側が踏段側に40mmずれて斜めになり、ガイドプレートに乗り上げていたのである。その他の主な異常だけでも[1]駆動チェーン側の押しボルトのねじ部の破損、[2]可動ベッドを固定ベッドに固定しているM16ボルトの緩みや曲がり、[3]ガイドプレートの破損、などが認められた(図4、5)*2。
*2 ボルトの曲がりやガイドプレートのはがれは、可動ベッドのずれに伴って発生したと推定される。
具体的には[1]の押しボルトは、ねじ部が破損してねじ穴がゆがんでいた。そもそも固定ベッド側の鋼板の板厚が9mmと薄く、かみ合うねじ山が3山ほどしかなかった。ところが、その半分程度の厚さしかなく十分かみ合っていなかった*3。[2]のM16ボルトは、2本にねじ山2山分程度の緩みが認められ、他の2本もボルトの首下が曲がっていた。トルクレンチによる締め付け管理は行っておらず、緩み確認も点検項目には入っていないという。
*3 通常M24程度のボルトに用いるナットの厚さは呼び径の8割程度とされており、この場合は19mm程度必要とされる。
[3]駆動モーター側のガイドプレートは、可動ベッドに押されて溶接部の一部が破断してすき間ができていた。報告書には「溶接部の溶け込みがなく、突き合わせ部に単に盛ってあるだけであった」とある。つまり、ガイドプレートを固定したというより形式的にくっつけただけといった状態で、可動ベッドの回転防止の役目を果たしていなかったのだ。
1)荻原,中山,井出川,「東京ビッグサイトでエスカレータ逆走、乗り過ぎだけとは思えない事故の原因」,『日経ものづくり』,2008年10月号,pp.44-48.
2)社会資本整備審議会, 『東京都内エスカレーター事故調査報告書』,2015年1月.