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「日経ものづくり」2015年2月号の事故は語る「単なる乗り過ぎだけではなかった、甘い設計が招いたエスカレーター逆走」を分割して再公開した記事の後編です。前編はこちら

滑っていたチェーン

 この他、上部スプロケットと駆動チェーンには破損があった。歯数20の歯車3列からなる上部スプロケットは、外側の2列にそれぞれ3カ所の欠損が認められた(図5)*4。駆動チェーンには欠損こそなかったものの、リンクプレートやローラーにスプロケットの歯が当たったとみられる傷があった。正常な稼働では発生しないはずの傷だ。また、駆動チェーンは上側が張って下側が緩んでいた。ただし、安全装置は作動していなかった。制御盤にも異常は認められず、過負荷保護装置も作動していなかった。

*4 欠損部は、事故時にできたものと、それ以前にできたと考えられる古いものがあったという。

 一方、下部スプロケット付近にある踏段チェーンの安全装置は起動していた。ハンドレールの速度異常検出装置は起動の有無を確認できなかったが、作動した可能性はあった。これらを総合して考えると、固定ボルトの緩みやガイドプレートの不適切な溶接によって固定が甘くなっていた可動ベッドが、多数の搭乗者の負荷に耐えきれずにずれ、それによって駆動チェーンがたるんで上部スプロケットとの間でかみ合い不良が発生して回転時に滑っていた状況が浮かび上がる。ただし、最終的には停止していることから滑りは断続的なものと考えられた。

設計計算書は存在せず

 では、事故当時どれだけの人が乗っていたのか。調査の結果、意外なことが明らかになった。ニュース映像およびインターネットの動画サイトの画像を分析したところ、搭乗者数は119~125人という分析結果だった。つまり、乗り過ぎといってもせいぜい定員を2~8人程度、つまり2~7%程度上回っていたに過ぎなかったのだ。これで可動ベッドがずれるようではあまりに許容度が低い。しかも、調査部会の調べに対し、オーチスからは設計根拠となる計算書が「存在しない」との回答だったという。安全設計に対する意識の低さがうかがわれる。

 事故後に同社が計算した結果では、積載荷重(65kg×117人)が乗った際に駆動チェーンにかかる引っ張り荷重は、3万2949N。これを水平方向と鉛直方向に分解すると、それぞれ2万8535Nと1万6475Nとなる。

 一方、調査部会が事故機と同型のマシンベッドを使って引っ張り試験したところ、水平方向で5万4560Nまで耐えることができた。これは積載荷重2万8535Nの約1.9倍。125人で計算しても3万1389Nで、計算上は保持力が確保されている。しかし、1.9倍という安全率は非常に低い。他のエスカレーターメーカーの場合、固定ボルトの安全率は7~8倍という*5。しかも、前述のように駆動モーター側の固定ボルトが緩んでいたこと、残る2本も締め付け時のトルク管理が行われていなかったことなどから、調査部会では水平方向の保持力が大きく減少していたと推定している*6

*5 日本エレベータ協会の調査によるもの。
*6 他にも締め付けが十分でないボルトが幾つかあったことも根拠となっている。