
スポンサーシップの目的はレガシーを残すこと
米コカ・コーラ社は1928年のアムステルダム大会から90年以上にわたってオリンピックをサポートし続け、サッカーのFIFAワールドカップのスポンサーとしても名を連ねるスポンサーシップ・マーケティングのパイオニアといえる企業だ。同社がオリンピックに携わる目的の1つが自社製品の販売促進。高橋氏は次のように説明する。
高橋 「1928年のアムステルダム大会では、米国以外の国にコカ・コーラ社の製品を広めていくことが目的でした。また、1964年の東京大会ではマラソンのコースに看板を掲出したり、沿道の酒屋に『コカ・コーラ』のクーラーを入れて販売増進を図りました。日本で『コカ・コーラ』を発売したのは1957年のことでしたが、本当の意味で製品が根付いたのはこの東京大会のときだったといえるでしょう」
2014年のソチ大会では、小売店との連携を密にすることによって、ロシア南部における清涼飲料水のシェアを拡大することに成功し、それまで後塵を拝していたライバルの「ペプシコーラ」を一気に逆転することができたという。ただし、同社がオリンピックのスポンサーであり続ける理由は、売り上げを増やすことだけではない。何よりも重視しているのは「レガシーを残す」ことだという。
高橋 「例えば、『2020年の東京大会を契機に製品の売り上げを〇〇%伸ばす』ということはレガシーではありません。2030年、2040年に振り返った時に『2020年の大会でこういう取り組みをやったからこそ、今のコカ・コーラ社を支える製品やビジネスが存在している」と言えることを残す。これがレガシーだと私たちは考えています」
コカ・コーラ社は、2016年のリオデジャネイロ大会で小容量の即時消費(IC)パッケージのキャンペーンを展開し、ブラジルをはじめとする南米市場で当時あまり普及していなかった小容量ボトルの飲料を根付かせた。これが大きなレガシーになったという。
レガシー構築に欠かせないナレッジ継承とプランニング
レガシーを残す上で欠かせないのが、これまでのスポンサーシップの取り組みで蓄積してきたナレッジだ。コカ・コーラ社の場合、1928年アムステルダム大会から長年にわたって蓄積してきた豊富なナレッジがあるが、重要なのはそのナレッジを継承し続けていくことだという。
高橋 「オリンピックでは、各開催都市(国)のコカ・コーラ社がチームを構成し、スポンサーシップに取り組んでいます。大会の開催期間には次の開催都市のオリンピックチームのメンバーが現地に赴いて視察します。終了後にはその大会と次の大会の2つのチームが一堂に会してミーティングを行い、改善点や見習うべき点などの意見を交換していきます。そうした取り組みでナレッジを継承していくのです」
ナレッジの継承は、常に新しいレガシーを生み出していくことにつながる。そのためには、綿密なプランニングも欠かすことができない。コカ・コーラ社では7年ほどのサイクルでオリンピックのプランニングを行い、ゴールから逆算してプロジェクトごとに必要な期間を割り出し、その計画に則ってスポンサーシップの取り組みを遂行しているという。
高橋 「東京オリンピックの開会式は2020年7月24日ですが、コカ・コーラ社の準備が整っていようがいまいがこの日にオリンピックは始まってしまいます。そこに乗り遅れないためには、綿密なプランニングと、プランを着実に遂行すること、そしてきちんと遂行されているかを追いかけることが欠かせません」