スポンサーシップは、社内への効果も大きい

 では、2020年東京大会でコカ・コーラ社は、どのようなレガシーを残していこうと考えているのか。高橋氏を中心とした東京2020オリンピックチームには、「次世代オリンピックにおけるアセットの運用方法」がミッションとして課せられているという。このミッションをクリアする施策について高橋氏は、講演時点では「まだ具体的な話はできない」としたものの、次の3つのキーワードを軸に考えていくことがポイントになると話した。

高橋 「1つめのキーワードは“東京2020”ではなく“ジャパン2020”だということです。オリンピックが開催されるのは東京ですが、日本全国に5社あるボトラー社を含むコカ・コーラシステムが一体となりオリンピックに向けた取り組みを進めていくことが重要だと考えています。2つめはデジタルに特化したアクティベーションを増やすこと。現在、日本コカ・コーラでは『Coke ON』という自動販売機と連動したスマホアプリを展開していますが、このようなデジタル施策を若年層の顧客を増やすきっかけの1つにしたいと思っています。3つめは人材育成です。スポンサー企業としてのオリンピックへの何らかの関わりをきっかけに将来のコカ・コーラ社を担う人材を育成していくことが大切になります」

 コカ・コーラ社はこの3つのキーワードに則り、2020年では「チケットを活用したプロモーション」「持続的な機材の開発」「オリンピックを活用した製品開発」「日常生活において運動機会を増やす取り組み」といったコンテンツを準備したいとしている。こうした社外に向けた取り組みは、従業員のモチベーション向上や人材育成などの効果も大きいと、高橋氏は説く。

高橋 「2020年東京大会への関わりを深めてきたこの2年間で退職者の数が大きく減っています。従業員もまた『オリンピックに関わりたい』という考えを持つようになっていることが、その大きな理由でしょう。オリンピックを題材にした従業員向けのモチベーション映像を展開するなどの施策も実施しています」

 企業によるスポンサーシップは、スポーツ産業を支える大きな柱の一つである。これから日本で続くメガスポーツイベントの開催を契機に、さまざまな形でスポンサーシップを検討する企業も増えていくことだろう。そこで重要なのは、ビジネスにおける目先の業績向上だけを考えるのではなく、自社の人材育成や社会に対する貢献などを考慮した長期的視点のレガシーを残すことだ。その考えを持つことが、回り回って将来的にビジネスの成長につながるということを、企業は忘れてはならないだろう。