2017年11月に日本の大手IT企業であるDMM.comが買収したベルギー1部のサッカークラブ「シント=トロイデンVV(以下、STVV)」。日本代表にも選出されている冨安健洋選手や遠藤航選手など6名の日本人選手を擁し(2019年2月時点)、今、日本で最も注目されている欧州サッカークラブと言っても過言ではない。このクラブの経営責任を担うのは、ベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)や東京ガスサッカー部(現・FC東京)などでプレーし、現役引退後にはFC東京のゼネラルマネジャーなどを歴任した立石敬之氏だ。最高経営責任者(CEO)に就任して1年が経った立石氏に、ベルギーで感じた手応えや今後のプランについて話を聞いた。(聞き手:上野直彦=スポーツジャーナリスト、久我智也)

STVVのセンターバックとして活躍する冨安健洋選手(右)。日本代表にも選出されている
STVVのセンターバックとして活躍する冨安健洋選手(右)。日本代表にも選出されている
((C)STVV)

日本とベルギーの違いは「クラブスタッフの働き方」

STVVのCEOに就任されてからの1年間を振り返ってみて、これまでに印象に残っていることや、日本と違いを感じることなどを教えてください。

立石 ベルギーは外国人選手枠というものがほぼありませんので、国籍が異なる選手たちをどうまとめていくかという点は日本と異なっています。ただ、選手たちのディシプリン(規律)やプロ意識は高いレベルにあるので、現場レベルで驚いたということは特にありません。

 むしろ、フロントサイドの方で日本との違いを感じました。良いか悪いかは別にして日本のクラブスタッフは、彼らの時間の多くを仕事に捧げる傾向にあります。しかしベルギーをはじめとした欧州の場合、決められた時間の中で仕事をすることが習慣付いているのです。だからベルギーに行った当初は、スタッフに仕事をしてもらえる時間がこんなにも少ないのかと戸惑いました。だからこそ、限られた時間の中で彼らをどうマネジメントしていくかということを日々考えています。

 僕はベルギーで日本人経営者が集まる会に参加しているのですが、スポーツビジネス以外の企業の方も、欧州の人々の仕事に対する向き合い方の違いには始めのうちは苦労しているようですね。

シント=トロイデンVV(STVV) CEOの立石敬之氏。1969年福岡県北九州市出身。ベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)や東京ガスサッカー部(現・FC東京)、大分トリニータなどでプレー。現役引退後、大分トリニータのコーチやFC東京のGMなどを歴任。2018年1月より現職
シント=トロイデンVV(STVV) CEOの立石敬之氏。1969年福岡県北九州市出身。ベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)や東京ガスサッカー部(現・FC東京)、大分トリニータなどでプレー。現役引退後、大分トリニータのコーチやFC東京のGMなどを歴任。2018年1月より現職
((C)STVV)

現地のスタッフとはどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。

立石 僕がCEOに就任してから、いきなり日本人スタッフに刷新するということはせず、既存のスタッフたちを全員残しました。もちろんこのクラブで日本人のスタッフを育てていきたいという思いは持っていますが、まずは既存スタッフの成長を見てみたかったからです。

 以前のCEOは各スタッフに裁量を与えて自由に動いてもらう方針を取っていたようですが、僕の場合は目標設定やそこに至るアプローチを明確化するように指導するなど、ある種、日本的な動き方をしています。それこそ経費の使い方にも細かく口を出したりという具合です(笑)。こうしたことはなくてはならないものだと思っていますし、結果的にこの1年で成長している部分も見えてきていると感じています。