運動量だけがサッカーの本質ではない
―― まず、Jリーグがeスポーツに参入した狙いを教えてください。
村井 第一の目的は、“リアル”なJリーグ、そしてサッカーに親しんでいただける、関心を持っていただける顧客の裾野を広げることです。eスポーツに関心を持っていただいた方が、ひいてはサッカーの観戦者になったり、実際に自分でもプレーしてみようと思ってくれたりして、サッカーの普及であったり、観戦者の増加につながればという期待があります。
eスポーツは、性別や年齢、障害の有無に関係なく、誰でも楽しめます。そういう点で幅広い層の方々にサッカーに関心を持っていただくには、とてもいい“商材”です。
Jリーグのファンの平均年齢を引き下げるためということだけではありません。逆に、高齢化社会の日本において「もうサッカーなんかできないよ」と思い込んでいる高齢者の方々が、孫と一緒に本気になって対等にダッシュを繰り返せるゲームの体験を通じて、サッカーの魅力を感じ続けていただけたらと考えています。
―― ゲームでサッカーをやることと、リアルにサッカーをやること・見ることは、実際につながっていくのでしょうか。
村井 サッカーは“複雑系”というか、総合的なスポーツです。身体を使うのはもちろんですが、どういう戦術でどう相手の裏を突くのかなど、相当な“ブレーンワーク”を伴います。単純に運動量だけがサッカーの本質ではないので、eスポーツにはリアルのサッカーを体験できる要素もあります。
ベースの価値観として、日本ではスポーツは「体育」という捉え方が中心でした。体育の領域からの影響を強く受けていますので、eスポーツを見たときに体を使っていないと多くの方が指摘したりします。
一方で、スポーツが競技やエンターテインメントから派生している国もあります。「ストリートサッカー」などは別に学校の先生が教えるわけではないし、通信簿で点数が付くわけでもなく、相手との駆け引きで遊びの延長線上からスポーツに派生しました。だから、eスポーツは日本社会におけるスポーツの定義を広げていく役割も担えるのかと思っています。
日本体育協会は2018年4月1日に、その名称を「日本スポーツ協会」に変更しました。これまでの教育という色彩から、世代を超えて楽しむものというベースの価値観の変化が根底にあります。
これはリアルのスポーツですが、最近「ウォーキング・フットボール」が普及し始めています。ルールはサッカーと同じですが、両足が地面から離れたらイエローカード、つまり歩かなくてはいけない。この競技も「サッカーではない」と言われがちですが、サッカーが持っている本質は走ることにはありません。
こうしてサッカーの範ちゅうが広がっていく延長線上に、当然家庭で楽しむビデオゲームがあります。実際、Jリーグのプロ選手で、明日の対戦相手のシミュレーションをビデオゲームでやって、雰囲気を感じるということをやっている人もいます。
―― ゲームを通じてすそ野を広げるという効果について、具体的にどのようなことを想定されているのでしょうか。例えば、世界で成功事例は出てきているのでしょうか。
村井 まだ私たちも、海外の確たるケースを分析しているわけではありません。実際、今回の大会を主管してみて、従来からのサッカー関心層とサッカーゲームを楽しんでいる層がどのくらい重なっているのか、実態を正確にはつかめてはいません。こういう大会を経験しながら、相互流入がどの程度起きているのかをつかみたいと思います。
私はeJ.LEAGUEの発表会見をした日(2018年3月9日)に、すぐに家電量販店へ行って、「FIFA 18」を購入しました。今でも自宅でプレーしています。私自身リアルのサッカーをプレーしてきたわけですが、世界に実在する選手が自分と一緒にゲーム内で戦っている絵柄に入り込んでいくと、相互に世界が広がっていくリアリティーを体感できました。