協会が強いことは、競技強化の必要条件

日本のスポーツ界は2020年に向けて大きな変革の時期を迎えることになります。これからスポーツ界に必要になるのはどんなことだとお考えでしょうか。

須原 私はサッカーやスポーツの専門家というわけではないので、事務方として、経営者として今のご質問に答えることになりますが、アドミニストレーション、つまり事務方を強くしていきたいと考えています。

 サッカーに限らずどのような競技においても、事務方である競技協会が強ければその競技が強くなるかと言ったら、決してそうではありません。しかし事務方が弱いと絶対にその競技は弱くなってしまうのです。つまり、事務方が強いことはその競技が強くなるための十分条件ではありませんが、必要条件であるのです。だから事務方が強くなり、選手や指導者が安心して競技に専念できる環境を作っていかなければならないと考えています。

 そのことを考える上で切り離せないのが予算です。今はオリンピック・パラリンピックに向けて国を挙げて金銭的な支援が行われています。その予算を元に強化を行い、結果を出せばさらに支援の額は増えることになります。ただ、このサイクルは2020年を終えてからも続くという保証はありませんから、そこに頼っていては強化を続けられなくなってしまう。

 であるならば、やはり裏方がしっかりして、自分たちが持っている企業価値、ブランド価値を顕在化し、自分たちの考えや活動に賛同してくれる人を増やし、オウンマネーを持たなくてはなりません。そしてそのお金を選手のため、普及のため、競技のために還元していくというサイクルをつくらなくてはなりません。今は、そのための千載一遇のチャンスだと思います。

 オリンピック・パラリンピックのレガシーと言うと、ついつい施設などのハード面ばかりが注目されますが、それだけではなく、競技協会が自分たちで運営していくことができる仕組みもレガシーだと思います。それを作れるかどうか、私としてはすごく興味を持っているところです。

JFA専務理事の須原清貴氏
JFA専務理事の須原清貴氏
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では、JFAとして、須原さんとしての今後の目標を教えてください。

須原 JFAでは、2015年に「JFA中期計画2015-2022」を発表しました。その中では「2030年までに、サッカーファミリーを800万人にする」「男子日本代表チームが2030年までにワールドカップでベスト4に入る」といったことを目標にしています。この中期計画は私の前々任者が策定してくれたもので、私としてはこれを引き継ぎつつ、それぞれの目標を進化させながら取り組みを進めていきたいと考えています。

 例えばサッカーファミリーの数については、現在はX軸、つまり頭数の話だけをしている状況ですが、私はそこにY軸の考えも取り入れた上でサッカーファミリーについて考えていきたい。どういうことかと言うと、一口にサッカーファミリーと言っても、自分で本格的にプレーしている人、ライトにプレーしている人、Jリーグクラブのコアサポーターとしてアウェイまで駆けつけて応援する人、あるいは代表戦がある時にはテレビで見る人、というように、一人ひとりの関与や興味の度合いは異なります。

 なので、サッカーに対するエンゲージメントの深さをかけ合わせた上で面積論でサッカーファミリーを見て、どうすれば面積を最大化していけるかを考えていきたいと思っています。なぜ面積論で見ていくかと言うと、これからの日本は人口が減ります。さらに、これはとてもいいことですが、するスポーツとしても、観るスポーツとしても、今は選択肢が豊富にあります。そうした中で、他の競技と取り合うというよりも、コアなサッカーファミリーをつくっていくには、面積論で捉えていかないとならないんです。

人口の減少やスポーツの選択肢の幅が増えた中で、サッカーの裾野を広げるには何が必要になるのでしょうか。

須原 普及のために必要なのは、施設・設備と指導者の2つです。施設・設備については、政府や自治体との協業が欠かせませんので、それらと連携しながら地道に取り組んで行きたいと思っています。

 我々が中心となってやらなくてはならないのは、指導者についてです。これはスポーツに限らず、企業にも通じる話ですが、いかに指導者を育てるか、指導者が指導しやすい環境を作ってあげるかということが非常に重要です。

 例えば今、部活動の改革が注目されていますよね。JFAにとって部活動はとても大切なものですので、部活の指導者の方々のストレスを軽減するためには何をすればいいか、どうすればサポートできるかを色々な側面から研究しているところです。その一例として、JFAでは公認指導者資格をお持ちの指導者の方に『テクニカルニュース』という冊子を隔月で発行しています。

 この冊子には指導に関する様々な情報が掲載されているのですが、文字がベースになっていて、一生懸命考えて読み解いていかなくてはなりません。だから我々は、このテクニカルニュースをデジタル化し、動画で情報発信していくことで、指導者がより直感的に理解し、選手たちに教えられるようにしていきたいと考えています。これは来年には必ず実行します。そうやって、指導者のストレスを軽減し、指導しやすい環境を提供していこうと考えています。