京都で多様性を持つことにこそ意味がある

添田 (2)については、先に挙げたように京都は世界有数の観光地ですから、日本をはじめ各国から多くの観光客が訪れます。サッカーに興味のない方も含め、そうした人々が関われるようなクラブになっていきたいという思いを込めたビジョンです。

 それを意識して、例えば将来的にはスターティングメンバー11人全員が外国人プレーヤーというのも面白いと思います。当然、現在のカテゴリーでは外国人登録枠の関係で不可能ですが、裏を返すと、そうした外国人選手たちは、世界中からわざわざ京都まで来てくれて、プレーを通じて世界に京都の魅力を発信してくれているんです。こうしたことはサッカーでないとあり得ないとも思っています。

 それに京都は人気観光地である一方で、意外と閉鎖的な部分もある土地柄です。そんな場所からこういった価値観を発信できるのは、とても意義があることだと考えています。

おこしやす京都ACでは、今シーズン途中にガーナ出身のエリック・クミ選手を獲得しました。彼の加入も、インバウンド戦略の一環なのでしょうか。

添田 そうです。エリックはガーナでアンダー世代の代表や、ガーナ国内リーグ選抜チームにも選出された選手で、今シーズンは途中加入ながらも5試合で7ゴールを挙げて得点ランキング2位となり、チームに大きく貢献してくれました。

 彼がおこしやす京都ACに加入した背景には、日本人で初めてアフリカ大陸でサッカー監督を務めた八橋健一さんという方の存在が影響しています。現役引退後、今、私が所属しているスポーツXという会社の代表である小山淳(J3藤枝MYFCの創設者であり、同チームの社長も務めた)と共に世界中のスポーツビジネスの現場の視察旅行に行った際、ガーナで八橋さんとお会いする機会がありました。八橋さんは将来的にガーナでアカデミー機関を創りたいという考えを持たれていましたし、我々のビジョンにも共感をしてくれました。それならばガーナ人選手が日本で活躍するルートを作っていこうということで、その第一号がエリックです。

 ガーナはサッカー強豪国で、トップレベルの選手は欧州で活躍していますが、その反面、代理人が高額の収入を得るために半ば無理やりのように欧州に移籍をさせてしまうケースもあります。それで活躍できないだけならまだしも、お金がなくなって故郷にも帰れずホームレスのような生活を送っている選手も少なからず存在しています。その背景には、選手たちがサッカー以外に収入を得る道がないということも関係しています。エリックの場合も、彼が故郷の家族に仕送りをして生活を支えているんです。

 ですから、アカデミー機関を創ってしっかりとした教育を受けさせ、例えサッカー選手になれなくとも地域で活躍できる人材を育てること、そして日本を経由してアジアで活躍するようなルートを構築できれば、そうした不幸なケースを減らせると考えています。

都市ごとの特徴を活かしたクラブビジョン

3つめのビジョンである「『スマホメディア』日本一のSNS媒体の構築」についてはいかがでしょうか。

添田 今はパソコンからスマートフォン(スマホ)の時代にシフトしています。実際、世界中の人々がスマホを持ち、日々SNSに触れています。そうした時代にあって、これからサッカークラブが注力していかないといけない媒体はスマホだという考えをクラブとして強く持っています。京都という世界中の人が訪れる地域のクラブとして、地域の魅力を発信する上でも重要なことだと思っています。

 今の段階で具体的に何かに取り組めているわけではないのですが、例えば選手たち一人ひとりをもっと深く掘り下げて、どういう思いでサッカーをしているのか、これまでどんなエピソードを持っているのかといったことを発信するメディアを持っていきたいです。選手たちが持っているストーリーは、実はものすごい財産なので、ある意味、選手たちの「アイドル化」と言いますか、そういった情報をSNS経由で発信していければと考えています。

プロスポーツクラブはどのチームもビジョンを持っていますが、それが抽象的なクラブも少なくありません。しかし、おこしやす京都ACの場合、今伺った3つのビジョンはどれも具体的なメッセージを掲げており、特徴的だと感じました。

添田 地域に貢献する、地域コミュニティーを形成する、あるいは地域の人々に運動機会を提供するといったことは、プロスポーツクラブにとっては当たり前に果たすべきものだと思っています。それらは当然行うものとして、その上で都市ごとの特徴を活かしたクラブになっていかないといけないので、こうしたビジョンを設定しています。

 もし今後、他のクラブに携わらせていただく機会があれば、当然そのクラブの歴史や、その土地の背景を考慮した上で、どういうクラブを創り、街をどう変えていくかという観点で、ビジョンや経営方針を掲げていかなくてはいけないと考えています。