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「日経エレクトロニクス」2015年5月号の無線モジュールの要、アンテナ設計の基礎「[第1回]今さら人に聞けない電磁気学を直感的に理解」を分割して再公開した記事の後編です。前編はこちら

前回は、無線通信に使える高周波を扱う上で不可欠な波動方程式とオイラーの式について、一般的な教科書とは全く異なるアプローチで分かりやすく説明した。今回は電磁気学の基礎となるマスクウェルの方程式を数学的に捉えることなく直感的に理解するための考え方を説明する。(本誌)

高周波は電磁気学で考える

 無線通信で利用できる高周波は、電磁気学で考える。周波数が高くなると、雑音の放射などが発生するため、電界と磁界を基にした電磁気学で考える必要が出てくるからだ(図9)。しかし、その電磁気学でも実は、電子工学のオームの法則が使える。

図9 電子工学から電磁気学へ
高周波は電磁気学で考える。
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 オームの法則では、電力Pは電圧Vと電流Iの積である。また、抵抗Rは電圧Vを電流Iで割ったものなので、電力Pは電圧の2乗V2を抵抗Rで割ったものでもある。同様に、電流の2乗I2と抵抗Rの積でもある。

 それでは、電磁気学の公式を見てみよう。アンテナから空間に放射される電力密度Pdは、電界Eと磁界Hの積である。また、電界の2乗E2を120π注3)で割ったものでもある。同様に、磁界の2乗H2と120πの積でもある。これを、オームの法則と見比べてみる。電界Eと電圧Vが、磁界Hと電流iが、それぞれ1対1に対応していることが分かる(図10)。

注3)120πは近似値である。真の値(真空の透磁率μと光速cの積)との誤差は約0.69/1000と非常に小さい。電磁気学では、球の表面積で割り算や掛け算をする場面が多いので、120πという近似値を使うことで約分が可能になるという利点がある。
図10 電磁気学でもオームの法則が使える
電界を電圧、磁界を電流と読み替え、オームの法則として考えればいい。抵抗に相当するものは120πしかない。
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 それでは、電磁気学の公式において、オームの法則での抵抗Rに相当するものは何か。電界を磁界で割ったものだが、2つの式を見比べると、それは120πであることが分かる。これは、電磁気学は非常に簡単な世界であることを示している。空間を電界と磁界が伝わるときの電界と磁界の比率を空間インピーダンスと呼ぶが、これがオームの法則での抵抗Rに相当する。電磁波が自由空間を飛んで行くときの空間インピーダンスは抵抗Rのようにさまざまな値を持つことはなく、120π(377Ω)という値を考えればよい。

自由空間=電磁気学において、一切の物質が存在しない仮想的な空間のこと。

 このように考えることで、オームの法則と電磁気学の公式を1対1に結びつけられる。電界や磁界という言葉に拒絶感を覚えていた人は、電界を電圧、磁界を電流と読み替えよう。そして、オームの法則として考えればいい。抵抗に相当するものは、電磁気学ではただ1つ、120πだけを考える。電磁気学の世界はすべて、オームの法則で計算できるのである。

 電磁気学の公式の電力密度Pdは、単位面積を通過する電力である。距離dだけ離れた場所の単位面積1m2を通過するエネルギーが電力密度になる。この単位面積を通過する電力に球の表面積4πr2を掛けると、この波源から出ている、すなわちアンテナから送信されている電力Pが求まる。このように整理してくと、電磁気学はどんどんやさしくなっていく。