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 オバマ前政権の中東政策を批判してきたトランプ大統領は、「IS勢力対策」が一定の成果を得た後は、中東への新アプローチとして「イラン封じ込め」「親イスラエル」をより鮮明に打ち出しているようにみえる。こうした強引ともいえる中東政策の背景には、米国がシェール革命によりエネルギーの自立を遂げつつあるという事実があるといえよう。
 
 実際、米国の原油(crude oil)生産は2008年の日量500万バレルを底に増産に転じ、2018年以降は記録的な拡大が続いている。

 米エネルギー情報局(EIA)が2019年4月に発表した「短期エネルギー見通し」によると、米国の2018年の原油生産量は日量1095万バレルで1973年以来、45年ぶりの世界首位に返り咲いた(2位はロシアで1075万バレル、3位はサウジで1042万バレル)。

 EIAは、米国の2019年の産油量を日量1239万バレル、2020年は1310万バレルと過去最高を更新すると予測している。この約7割(日量800万バレル超)はシェールオイルだ。足元の原油輸出は日量235万バレルで、輸入が660万バレルであるから、原油の純輸入量は日量425万バレルまで縮小している。

10年で2倍以上の生産量に
10年で2倍以上の生産量に
米国の原油生産量(出所:EIA)
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シェールオイルの増産止まれば絵に描いた餅

 英BPの「BP世界エネルギー統計2018年版」によれば、米国の国内原油消費量が日量2000万バレル弱であるのに対し、2000年以降は同1100~1300万バレルの原油を輸入してきた(輸入比率50~60%)。この約半分は、サウジ、ベネズエラ、イラク、クウェートなどOPECからである。

純輸入量が減ってきた
純輸入量が減ってきた
米国の原油輸入量と輸出量(出所:BPエネルギー統計)
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 しかし、足元の原油輸入量は日量700万バレルを下回るようになる一方、輸出量が同500万バレルを上回る水準となっている。EIAの強気の見通し通りに産油量が長期的に拡大を続けられるならば、トランプ大統領の中東への新アプローチ政策も期待通りの成果をあげることが可能であろう。

 しかし、そうした原油生産拡大の大半はシェールオイルの増産(特にパーミアン盆地からの生産増)によるものである。果たしてシェールオイルは長期的に増産が可能なのか。

 私たち石油経済研究会は、すでに優良な鉱区はほぼ開発し尽くされ、さらに抗井を増やすには、高コストの鉱区開発が欠かせないが、原油価格が低迷したことで開発投資が進んでいないことを確認している(「シェール革命は短命に終わる」「鮮明になってきた米国シェール革命の限界」参照)。

 にもかかわらず足元の産油量が拡大を続けているのは、北米シェールオイルの産地に存在する7000基を超えるDUCs(Drilled but Uncompleted Wells:掘削済みだが未仕上げの抗井)によるものである。

 しかし、1本のシェールオイルの油井は2~3年でピークを迎え、その後、生産量は急速に減る。増産を持続させるためには、次々と新規の抗井を増やす必要がある。シェールオイルにとって、言わば「油田在庫」に相当するDUCsが継続的に開発されていないとすれば、シェールオイル自体の生産量も減少に向かうことになる。

 トランプ政権による中東新アプローチの前提である、米国のエネルギー自給化が絵に描いた餅に終わるならば、中東に新たな力の空白をもたらし、原油市場を一段と不安定化させることになろう。