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 カナダのオイルサンドには、(1)高い生産コスト、(2)生産過程で発生する多量のCO2(COP21の制約)、(3)生産過程で排出される多量の環境汚染、(4)先住民族の権利侵害、(5)米国へ輸出するのに必要なパイプライン新設計画の停滞、などの難問が立ちはだかっている。

 ここでは主に(1)のコスト問題を検証していく。(2)は(1)と同根の問題であり、これらがオイルサンド事業の根源的課題だ。(3)(4)(5)もオイルサンド生産を進展させるうえでは障害になる。

 英調査会社IHSマークイット社の報告書によれば、オイルサンドの損益分岐コストは、露天掘りで1バレル85~95ドル、SAGD法では同55~65ドルとなっている。ただし、これらのコストには、水素添加による軽質化(粘度低下)コストは含まれていない。

 ちなみに、「IEA Resources to Reserves 2013」によれば、超重質油(オイルサンドやシェールオイル、ベネズエラのオリノコ重質油など)の生産コストは1バレル50~90ドル程度で、IHSの報告とほぼ同レベルにある。オイルサンドのコストは、中東原油の10~30ドル、その他の在来型原油の10~70ドルなどと比較してかなり高い。

 つまり、原油の市場価格が1バレル55ドル以下の状況では、ほとんどのオイルサンド事業は赤字経営となる。サンドオイル採掘のほぼ半分は露天掘りと考えられるが、これらは市場油価が85ドル以上でないと成り立ちにくい。

 2010~14年の油価が1バレル100ドルという水準の高値安定時期には、オイルサンドの生産は順調で、それまでにない増産が続いた。しかしながら、2015年以降は大きく変化している。2014年末に原油価格が暴落し、現在まで市場油価は50ドル前後に低迷している。

オイルサンド事業からの撤退が相次ぐ

 オイルサンド事業は大きな打撃を受けた。ほとんどの事業者が2015年以降、赤字経営に陥っている。それでも生産量が減少していないのは、2014年以前に生産を開始した事業が現在も生産を継続しているからである。将来の油価回復を期待して、赤字経営に耐えている企業もあるが、回復をあきらめて、オイルサンドから離脱する企業も少なくない。今後の経済の見通しが不透明の中では、オイルサンド事業の復活はかなり困難であろう。

 2014年末の油価暴落とほぼ時を同じくして、2014年9月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告書が発行され、2015年12月にCOP21のパリ協定が採択された。先進国は2050年にはCO2排出量を現行レベルから80%削減することが方向付けられた。

 カナダのオイルサンドの生産過程では、在来型原油よりも多量のCO2が発生することはすでに述べた。CO2排出削減という環境制約からも、生産継続が危ぶまれる事態にある。

 このような状況を踏まえて、2017年4月までに、米コノコフィリプス、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、米マラソン・オイル、米マーフィー・オイル、ノルウェー・スタトイルといった有力な石油企業が相次いで、カナダでのオイルサンド事業からの撤退を表明した。これらの企業は資産をカナダの国内企業に売却したが、その額は250億ドルにのぼるとの報道もある(その後、米シェブロンも売却を検討中と報道されている)。

 加えて、COP21への対応を重視するカナダのトルドー首相は、2017年1月、オイルサンド事業を段階的に縮小すると発言している。