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 ここから先の「読み」は非常に難しい。あえて予想するなら、SegWit2x開発グループは11月に予定されているハードフォークの懸念を、ギリギリまで撤回せずに残したままにする可能性が高いが、ハードフォークの実施は回避するのではないだろうか。撤回しないと考える理由の1つは、それがニューヨーク合意の約束であること。約束を変更するには、それ相応の理由付けや手続きが必要になる。もう1つの理由は、一部の企業グループがビットコイン開発者コミュニティに、ビッグブロック派の主張を通すための圧力をかける交渉材料に使えることだ。ハードフォークを回避すると考える理由は、Bitcoin Cashがすでに存在する以上2回目のハードフォークを実施する理由が乏しいからだ。

  11月のハードフォーク懸念が単なる懸念のまま終わる可能性は大きいと、筆者は現時点では考えている。ニューヨーク合意に署名した各社はオリジナルのビットコインが改善されることを望んでいたのであって、新たな仮想通貨が誕生することを望んでいたわけではない。一方で、11月にハードフォークによる新たな仮想通貨が生まれる可能性もゼロとはいえない。

 今後しばらくは、Core Devとニューヨーク合意派(SegWit2x推進派)の論戦が続くだろう。ニューヨーク合意も一枚岩ではない。ニューヨーク合意に署名した1社である独Bitwala社は、Core Devが合意に参加していないことに疑問を表明し、ハードフォークを積極的には支持しないと表明している(声明文)。また、仮想通貨分野のメディアCoindeskは、中国の大手マイニングプールF2PoolがSegWit2xをサポートしないと語ったと伝えている(記事)。

 一連の出来事の原因は、マイナーが寡占化して実質的にカルテルを結んでいたことが大きい。先述したように、マイニング用ASICと専用機器の開発元であるBitmain Technologies社が特に影響力を持った。Bitmain Technologies社の公表資料によれば、同社のASIC「BM1387」は台湾TSMCの16nmプロセスに基づき製造されている。技術的な詳細は非公開だが、チップサイズは3×4mm2程度とそれほど大きくないらしい(参考資料)。同社のマイニング用機器「AntMiner S9」はこのチップを189個搭載する。マイニング機器はビットコインのマイニングに必要なSHA256ハッシュアルゴリズムの計算に特化し、汎用のGPUでは全く太刀打ちできない性能を発揮する。この専用半導体の供給元が寡占化したことが「ビットコイン政治」を招いたとの見方もできるだろう。思考実験としては、専用半導体の供給元が増えればマイナー寡占化が崩れる可能性もあるだろう。

 ビットコインはどんな有識者にも先が読めない分野だ。予想外の動きが起こる可能性もあることを、改めて付け加えておく。

 ビットコインは最初の仮想通貨&ブロックチェーンとして今まで数々の危機を乗り越えてきた。8月1日の危機はひとまず乗り越えた。この先も決して平坦ではないだろうが、筆者はビットコインはこの先も問題を乗り越えていくのではないだろうかと考えている。