デジタル技術でやりたいことはいっぱいあります

―― 昨シーズンの開幕前に富士通と「ICT(情報通信技術)サービス部門におけるパートナー契約」を締結しました。米国のスポーツビジネスはデジタル戦略が進んでいると言われていますが、テレビの放送権が収入に占める割合が多いので、完全にデジタル戦略に振り切れていないという現実もあると思います。もしかしたら、ここで日本が新たなモデルを作るチャンスで、Bリーグはまさにそれをやろうとしていると受け取っています。富士通との契約の意義と意味を、葦原さんはどう考えていますか。

葦原 私は「これからはネット、特にスマホが主流だ」と当初から言い続けているので、その大きな方向性に共感したパートナーにご協力いただけることは本当にありがたいと思っています。

 単純に、スマホによるパーソナルな世界を、どこまで構築していけるかだと思いますね。今はネットで「スポナビライブ」を視聴できたり、スマホチケットが使えたりするといった程度ですが、実はもっともっとたくさんのことが実現できるはずです。そういったソリューションについては、富士通さんが多くのアイデアをお持ちです。例えば、アリーナに行ったら、観客ごとにパーソナライズされた情報をスマホで閲覧できるようになるべきだと思っています。これは、自宅で観戦していても同じで、パーソナライズされた情報がスマホに落ちてくる。

 みなさん、見たい内容は同じではありませんよね。2試合を同時に視聴したい人もいれば、イケメンの選手を見たい人もいるし、個々の選手のスタッツ(プレーに関する記録データ)を詳細に見たい人もます。「何を見たいのか」は人によって違うので、個人の趣味嗜好に合わせた情報が配信されるスマホアプリがいずれ必要になるでしょう。この環境を、なるべく早く整備しなければならないと思っています。

 デジタル技術を使ってやりたいことはいっぱいありますが、実現するには技術開発が必要です。その部分は、富士通さんに加えて、ソフトバンクさんなどパートナー企業と相談しながら進めていくことが大事だと思います。

葦原 一正(あしはら・かずまさ)
葦原 一正(あしはら・かずまさ)
公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 理事・事務局長。1977年生まれ。早稲田大学院理工学研究科卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務。2007年に「オリックス・バファローズ」、2012年には「横浜DeNAベイスターズ」に入社し、社長室長として、主に事業戦略立案、プロモーション関連などを担当。2015年、「公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」入社。男子プロバスケットボール新リーグ(B.LEAGUE)の立ち上げに参画。(写真:加藤 康)

―― スマートアリーナ、つまり「アリーナ×デジタル」について、葦原さんのビジョンを教えてください。

葦原 キーワードは、先ほどからお話ししているように「パーソナライズ」です。アナログではパーソナライズできません。テレビも放送こそデジタルですが、個人の趣味嗜好に合わせてパーソナライズされた情報は出てきませんので。

 試合会場内でも、アリーナの大型ビジョンに出せる情報は限られていますし、観戦者の多くが共通して見たい情報も限られていると思うんですね。だから、あとは差分の情報をいかにスマホで見せられるかということが重要だと思っています。

 例えば、マニアはより深い情報の方がうれしい。でも、私はマニアではないので、それよりも顔写真のような基本的な選手情報がうれしい。もしくは、ファールが起きた時に、どんなファールプレーが起きたのか、ルールの詳細を知らない人にとっては難しくて分からない。だから、何が起きているのか、きちんとわかるようにしてほしいとか。欲しい情報は本当に人それぞれですから、コアなファンか、ライトなファンか、あるいは性別の違いなどに応じて、スマホで新しいコンテンツを表現できるといいですよね。

 富士通さんは、いい要素技術をいっぱい持っています。例えば、3次元(3D)センシング技術は結構すごいですよ。あれはなかなか海外ではできないのではないでしょうか。映像を基に3ポイントシュートを打つときの角度や、速度をすぐに算出する技術があって、3ポイントシュートを打つ際の選手の立ち位置が遠くても近くても、実は最適な角度にあまり違いがないといったことがよく分かる。素人目には、遠いほど角度を上げないと届かないと思ってしまうじゃないですか。

 そういう選手のプレーに関するデータが、映像から出てきてしまう。結構、すごいと思います。まだ実証実験中ですが、そういう基礎技術ができつつあるんですよね。

(次回「ITの積極活用が、バスケを見る人・する人を増やす理由」に続く)

上野 直彦(うえの・なおひこ)/スポーツジャーナリスト
上野 直彦(うえの・なおひこ)/スポーツジャーナリスト 兵庫県生まれ。早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員。ロンドン在住の時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグも長期取材している。『Number』『AERA』『ZONE』『VOICE』などで執筆。テレビ・ラジオ番組にも出演。初めてJユースを描いたサッカー漫画『アオアシ』で取材・原案協力。構成や編集に協力した書籍に『全くゼロからのJクラブのつくりかた』(東邦出版)、『ベレーザの35年』(ベレーザ創部35周年記念誌発行委員会)、『国際スポーツ組織で働こう!』(日経BP社)、著書に『なでしこのキセキ川澄奈穂美物語』(小学館)、『なでしこの誓い』(学研教育出版)がある。NewsPicksで「ビジネスはJリーグを救えるか?」を好評連載中。Twitterアカウントは @Nao_Ueno