こうした点に加え、興行主やプレイガイドにとって導入の敷居が非常に低い点も採用が急速に進んでいる理由だ。具体的には、Quick Ticketを既存のチケット販売管理システム(CRM)の発券機能のAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)と連携するだけ。販売チャネルを変更する必要がないほか、興行主やプレイガイドに利用コスト負担は発生しない。

 playgroundは手数料として、チケット代の多寡に関わらず、1枚108円を購入者から受け取る。これまで購入者は発券手数料をコンビニで支払ったりしていたが、購入者の支払先が変わるだけである。

国際特許が成立

 ところで、playgroundとは“何者”なのか。前身は同社代表取締役の伊藤圭史氏が経営していた、小売業向けコンサル・システム開発のLeonis&Co.という2011年設立のベンチャー企業である。電子スタンプ技術はこのLeonisが開発した技術だ。同氏は2014年にLeonisをトランスコスモスに売却する形でグループ入り。2015年に「物理的なスタンプをスマホ画面に押印して、同時接触点を検出して、所定の条件を満たす場合は電子チケットが使用済みである旨を示す描画を行うサービス情報提供システム技術」が国際特許として成立した。

 この技術をファンサイト・ファンクラブの企画・開発・運営などを手掛けるEMTGが採用し、自社サービスとして専用アプリに組み込んで製品化。2014年5月からの約2年半の間にアーティストのコブクロの全国ツアーなど、数多くの興行で利用実績を残した。

 このため「専用アプリの開発は手間がかかるけれど、自社でも電子チケットサービスを始めたい」という問い合わせが多くなり、Leonisは2016年12月に専用アプリを必要とせず、ブラウザーベースで電子チケット発券が行えるQuick Ticket の提供開始を正式に発表した。その反響が大きかったため、2017年6月に電子チケットの発券に注力するplaygroundの設立に至ったという。

 playgroundはエンジニア集団である。2017年11月時点で社員は契約を含め32人。そのうち、エンジニアが25人を占めるという。

継続的コミュニケーションでビジネス拡大

 
 Quick Ticketには、“売って終わり”の紙のチケットにはない重要な利点がもう一つある。チケット購入者と継続的なコミュニケーションが取れるのだ。

Quick Ticketによって、紙のチケットにはなかったチケット購入者と継続的なコミュニケーションが取れる。これによって収益機会が拡大する(図:playground)
Quick Ticketによって、紙のチケットにはなかったチケット購入者と継続的なコミュニケーションが取れる。これによって収益機会が拡大する(図:playground)
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 具体的には、発券を起点に、来場前には限定グッズやイベントの案内、会場へのアクセス方法などの情報を送り、入場後は飲食のクーポンやお土産、スタンプラリーなどイベントの案内、そして帰宅時にも交通状況や近隣の飲食店情報などの提供でフォローできる。興行主は、チケット購入者の状況に応じてさまざまな情報を提供することで、収益機会を拡大できる可能性がある。

 例えば野球観戦だと、通常、7回以降はビールの売上が落ちるという。そこでビールのクーポン券を配布して販促するようなことができる。実際、米国のスタジアムやアリーナではスマホのアプリを通じたチケット購入者とのコミュニケーションによって、飲食や物販の売り上げを大きく伸ばした事例も多い。

 チケット購入者からの手数料を収益源とするplaygroundのビジネスモデルからすると、購入者が増えるほど同社の売り上げが伸びる。そこで、イベントに来る観客を増やしたり、リピート率を高めたりするために、興行主に対してコンサルティングサービスを提供しているという。

 「スタジアムをスマート化するためだけに何億円も投資できるスポーツチームは国内にどれだけあるのか。それは数少ないだろう。だとしたら、それを最も安く実現できる世界を提供したい」(河野氏)。古くからの商習慣や数多くのステークホルダーが存在する“アナログ”なスポーツ興行の世界で、デジタル技術を基盤とするエンジニア集団はどこまでフィールドを広げることができるだろうか。