ウォルト・ディズニーがBAMTECH Media(バムテック・メディア)を買収――。2016年8月に流れたこのニュースは、スポーツ業界に大きな衝撃を与えた。BAMTECH Media社は米メジャーリーグ(MLB)傘下のMLBAM(Major League Baseball Advance Media)社からスピンアウトした企業。オンライン映像配信を中心に、スポーツテクノロジーをけん引している。

 「スポーツアナリティクスジャパン2017(SAJ2017)」(主催:日本スポーツアナリスト協会、2017年12月2日)では、BAMTECHのCTO(最高技術責任者)であるジョー・インゼリーロ氏をゲストに招き、MLBAMおよびBAMTECHがリーディングカンパニーに成長した舞台裏、ディズニーと組んだ理由について聞いた。ナビゲーターはスポーツマーケティングラボラトリー代表取締役の荒木重雄氏が務めた。

「ファンが面白いと思えるデータを提示」

BAMTECH Media社のジョー・インゼリーロ氏。スポーツ業界でのキャリアは2017年で30年を迎えた
BAMTECH Media社のジョー・インゼリーロ氏。スポーツ業界でのキャリアは2017年で30年を迎えた
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 インゼリーロ氏のスポーツ業界でのキャリアは1987年、MLBのシカゴホワイトソックから始まる。その後、NBAのシカゴブルズとNHLのシカゴブラックホークスの本拠地ユナイテッドセンターでCTOを務め、2005年にMLBAMのCTOに就任。この間、数々の事業に携わり、スポーツ界の発展に貢献してきた。

 MLBは2002年に、スポーツ業界で初めてインターネットでライブストリーミングを配信。当時の視聴者は3万人ほどだった。しかしインゼリーロ氏は「始めたばかりのテクノロジーということを考えると、十分良いと思った」と、当時を振り返る。

 BAMTECHは2009年に、ネット配信で初めてHD動画を導入。当時はまだ、ケーブルテレビや衛星テレビでもHDは普及していなかった。

 2015年にMLBAMは、MLBのすべての本拠地球場にトラッキングシステム「STAT CAST(スタットキャスト)」を導入した。ミサイルの追尾用に開発されたレーダーと光学カメラを併用したトラッキングシステムだ。選手やボールの動きなど、さまざまなデータを高速かつ高精度に数値化できる。

 しかし、インゼリーロ氏は「データがあるだけでは、エンターテインメントにもビジネスにもならない。データを商品にするのは難しく、“どう伝えるか”が重要」と指摘する。

 スタットキャストの導入当初、膨大なデータの中から打ち出し速度・角度・予想飛行距離など、重要な項目数点に焦点を絞ったという。スタジアムによって客席までの距離も異なるため、それまではホームランボールの飛行距離は推測だった。しかし、スタットキャストを使用することで“どの選手が一番ボールを飛ばせるか”をファンに伝えられるようになった。

 「ファンが面白いと思える形でデータを提示する。一方、ビジネスとして採算が取れる形に進められるかが問題です。その方程式がなければ、自分たちで生み出さなければなりません。分析して判断するので、それだけ時間がかかるかもしれませんが、熱意のある人材がいれば前進できます」(同氏)

 次に、荒木氏が「日本ではデータやテクノロジーを使ってスポーツを観る文化が、まだブレークしていない」という課題を挙げ、文化を創るためのポイントを尋ねた。

 インゼリーロ氏はこう答えた。「データの可視化が大事な要素の1つです。可視化はデータをエキサイティングにします。例えば、野球ではグラフィックスを使い、ビデオゲームのような慣れ親しんだ形にしました。最終的に情報やインサイトが効果を持つためには、ユーザーに理解してもらわなければなりません。数字を出すのではなく、画像によって物語を語る。視覚的なコミュニケーションはユーザーとの結びつきを強くします」

 同時に、データの活用は選手やコーチの判断の助けにもなる。「使用の程度差はあるにせよ、コーチでデータを使わない人はいないでしょう。また、特に若い選手たちはデータを最大限に活用しようとしています。スタットキャストが入り、データをごく普通のものとして使うようになってきたことは驚きですし、非常に素晴らしいことです。ワールドシリーズに行けるか行けないかというのは、ビジネス面で大きな差を生みます。私たちはプロとしてベストを尽くし、意思決定しますが、データは選手たちにとっても正しい判断をする助けにもなります」(同氏)

BAMTECHがディズニーと組んだ狙い

 BAMTECH社は米国ニューヨークとカリフォルニア州に加え、欧州のアムステルダム(オランダ)やポーランドなどにオフィスを持ち、およそ1000人の従業員を擁する。従業員のおよそ80%は技術者。優れた人材の確保もBAMTECH社が成長する大きな要因になったといえる。

 「この業界で人材を確保するのはとても厳しく、人手不足でもあります。私がチームを作ったときは、多様性を重視しました。クラブ出身者もいれば、テクノロジーサイドの人もいます。また、素晴らしい人材は同じように能力のある人と一緒に仕事をすることを好み、素晴らしい人材がさらに集まってくる。質の高いアプリケーションを提供することで、BAMTECHで仕事をすればスポーツの見方・楽しみ方を変えることができ、エクスペリエンスの水準を上げられると自分自身が感じられる。それが私たちの強みです」(インゼリーロ氏)