自動車向けに開発していた技術

体操の採点支援に使用する3Dレーザーセンサー。1フレーム(画角)は7万6800点で、毎秒30回の発射で230万の測定点を取得する。カメラも内蔵。ネットワークで複数台を連携し、同じ時刻で異なる角度から選手を見られる。あん馬の判定は2~3台で対応できるという
体操の採点支援に使用する3Dレーザーセンサー。1フレーム(画角)は7万6800点で、毎秒30回の発射で230万の測定点を取得する。カメラも内蔵。ネットワークで複数台を連携し、同じ時刻で異なる角度から選手を見られる。あん馬の判定は2~3台で対応できるという
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 こうした課題を解決するのが、富士通研究所がもともと自動車向けに開発を進めていた3Dレーザーセンサーと、リハビリ向けに開発していた骨格認識ソフトを融合させた技術だ。これは選手に向かって1秒間に230万点という細かいパルス状のレーザー光を発射し、反射光を検出して対象までの距離を算出。そこから骨格の位置を推定し、手足の位置や関節の曲がり具合などを導き出し、体操競技の動きをデータベース化した「技の辞書」と照合して採点するシステムである。

 これまでスポーツ選手の動作分析には、「モーションキャプチャー」が主に使われてきた。これは、赤外光を反射する球体(マーカー)を肩、肘、膝などに装着し、赤外線カメラで選手の動きを捉える技術である。

 これに対して、3Dレーザーセンサーならマーカーの装着が不要なため、選手の演技の邪魔にならないほか、実際の試合でも使える利点がある。システム価格もより安価にできるという。

FIGと進める「新たな基準作り」

 ただし、これまで誰も手掛けたことがない体操競技の「採点のデジタル化」は、FIGにとっても富士通にとっても大きな挑戦であり、地道で骨の折れる作業だ。

 例えば、あん馬で体の正面で馬体を支持する「正面支持」。教本には「正面支持の姿勢で、体があん馬に対して15度以内に収まっていること」と書いてあるが、その場合の「体」とはどこか、頭のてっぺんから足の先までなのか、首から腰にかけてのラインなのか、などが明確に書かれていない。

 このようにアナログ的な曖昧さが残るものを「0」「1」のデジタルの世界に落とし込むには、「骨格Aと骨格Bの角度を15度以内」というように、いちいち厳格に規定しなくてはならない。

 体操のルールは、FIGで上級審判を束ねているテクニカルコミッティーという委員会が決定する。富士通では3Dレーザーセンサーが検出する18の関節に番号を付けており、例えば「この技は1番と3番のラインの角度を見る」などと規定する作業を、テクニカルコミッティーにいちいち確認しながら進めている。まさにFIGと共同で「新たな基準作り」に取り組んでいるのだ。

 体操教本には男子で807の技が書かれており、それを分解すると346の基本動作の組み合わせになるという。作業の効率化の観点から、この346の技の辞書化を進めている。

 そのとき重要になるのが、「審判・選手との感覚のズレがないかを突き詰める作業だ」(佐々木氏)。3Dレーザーセンサーは関節の位置を検出するが、関節を結んだラインの角度は、例えばひじの内側か外側を見るかで、感覚が異なったりする。

 また、センサーの設置位置によって選手の“見え方”が変わり、それが「精度」に影響を与える。設置場所や台数などノウハウの蓄積が必要になるという。

 そこでセンサーが取得したデータをCG化したものを審判が見て、彼らの感覚とずれていないかを、いちいち確認する作業が重要になるという。「こうした検証を繰り返さないと使いものにならない」(佐々木氏)。

骨格認識ソフトの画面例。3Dレーザーセンサーは18個の関節の位置を検出。そのデータからあん馬上で倒立する選手の骨格を認識し、膝や脊椎などの曲がり具合を割り出す(図:富士通)
骨格認識ソフトの画面例。3Dレーザーセンサーは18個の関節の位置を検出。そのデータからあん馬上で倒立する選手の骨格を認識し、膝や脊椎などの曲がり具合を割り出す(図:富士通)
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