目指すは「1席ごとの価格調整」
ダイナミックプラスが今後目指すのは、1席ごとのダイナミックプライシングだ。「日本だとSやAといったエリアで同じ価格が設定されているが、個々の座席の価値がエリアで皆同じでいいのかという疑問を持っている。既に米国では1席ごとに管理している」と平田氏は言う。
同氏は三井物産時代に米ニューヨークに駐在しており、ニューヨーク・ヤンキースで活躍した松井秀喜元選手の引退試合を2013年7月に観戦したという。ヤンキース・スタジアムでは1塁のベンチ裏の席の人気が一番高い。平田氏も息子と2人で前から3列目の席に座ったが、そこの価格は1席約500ドルだった。
ところが、1列目の座席はダイナミックプライシングで800数十ドルがピークになるまで値上がりしたという。日本だと同じエリアなので同価格なところ、300ドル以上の価格差があっても十分にニーズがあることを目の当たりにしたのだ。
興行主にとってはダイナミックプライシングの導入で収益の機会損失を減らせるわけだが、1席ごとの価格管理はかなりの複雑さを伴う。例えば、日本のプロ野球で3万席があるスタジアムの場合、ホームの公式戦は71試合あるので、3万×71試合が対象となる。平田氏は「肝はダイナミックプライシングにおいて球団ごとの適正モデルを作れるか。それができる人材を今後増やしていく」と話す。
実はダイナミックプラスでは、ダイナミックプライシングの対象外の座席についても適正価格を算出し、球場全体のレベニューマネージメントを担当している。例えば、ソフトバンクホークスの福岡ドームでは、ダイナミックプライシングの対象はS席の1塁側と3塁側だけだが、3万5000席を対象にした収益予想をホームの71試合分で立てているという。「予想が現実と比較してどうかを確認できる。球団も多くの人的リソースを持っているわけではないので、収益予想は価値があると言われている」(平田氏)。
導入に日本特有の課題
興行主に収益増をもたらすダイナミックプライシングだが、日本市場で普及するためにはクリアすべき課題も多い。
まずはチケットの電子化の遅れだ。最近になってようやく電子化が進んできたが、国内ではいまだに紙ベースのチケットが主流である。複雑な流通構造も問題だ。日本では興行主が複数のプレイガイドと提携しているのが一般的で、流通構造がシンプルではない。
また1席ごとにダイナミックプライシングを適用しようと思っても、現状では票券(チケット)管理と販売システムが対応していないという問題もある。
「この分野では、日本市場は米国より5~6年は遅れている」。平田氏はこう見るが、この遅れが逆に今後の伸びしろを示しているという。米国のスポーツ業界で初めてダイナミックプライシングが適用された2011年ごろは、対応チケットの販売枚数は30万枚程度だった。それが2017年には約2000万枚と急速に伸びている。他産業にあるように米国のトレンドを日本市場がなぞるとすれば、ダイナミックプライシング市場には高い成長率が期待できるだろう。