海外でデータ解析による野球の“デジタル化”が進む中、その分野では1歩遅れているのが日本だ。判定の精度を確かめるために2010年に本塁打のビデオ判定が始まったという程度で、野球中継で表示される球種の表示はオペレーターが手入力したものだ。試合を左右する決定的な場面できわどい判定が下されるたびに「早く日本でもPITCHf/xを導入して欲しい」というファンの声が上がっていた。

 2015年10月14日、PITCHf/xを利用したクライマックスシリーズの中継が始まり、国内でPITCHf/xの販売を手がけるデータスタジアムが「PITCHf/xデータをテレビ中継で利用いたします」と発表すると「この3D表示は、やはりそうだったか」と歓迎する声がネットに踊った。

日本で導入はヤフオクドームのみ

 なぜ今年のクライマックスシリーズと日本シリーズで突然PITCHf/xが使われるようになったのか。その経緯はこうだ。データスタジアムは2013年から各球団にPITCHf/xを売り込んでいた。2014年シーズンから選手の強化に生かすためのツールとして使い始めたのは福岡ソフトバンクホークスだ。「IT企業だけに、新しい技術に理解があった」(データスタジアムの須山晃次ベースボール事業部プロデューサー)という。

 ただ、国内で導入したのは1球団だけ。そこで2015年夏にPITCHf/xの開発元であるスポーツビジョンとデータスタジアムで販促策を協議した。その話し合いで「認知度を高めるため、試しに放送でPITCHf/xを利用してはどうか」と決まったという。

カメラからの映像はラック型のコンピューターに取り込み、投球の各種データを瞬時に生成する。このほかに3Dグラフィックスを作り出すためのコンピューターもある
カメラからの映像はラック型のコンピューターに取り込み、投球の各種データを瞬時に生成する。このほかに3Dグラフィックスを作り出すためのコンピューターもある
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 PITCHf/xのカメラは現状でヤフオクドームにしか設置されていないため、ホークスの中継にしか利用できない。ただ、幸いにも夏の時点でホークスはペナントレースを独走しており、リーグ1位になることはほぼ確実だった。であれば、注目度が高まるクライマックスシリーズで日本初の放送に挑もうという結論に至った。早速、ホークスや放映権を持つNHK BSと交渉し、トントン拍子に話は進んだ。同時に日本野球機構やパリーグにも許可を得る手続きを進めたという。

 放送をするうえでは「判定とPITCHf/xの計測結果に食い違いがある」と、審判に対する批判が必要以上に高まるという懸念もあった。そこで、画面上でストライクゾーンを示す線をややボカシ気味にする、アナウンサーが折に触れて「あくまでも目安です」と視聴者に呼びかけるようにしたという。ただ、実際に放送をしてみると「『確かにギリギリ入っている、よく見ているな』と審判の技術を改めて評価する声も多かった」(NHKの寺沢氏)という。

 メジャーリーグのPITCHf/xを使った放送では、ピッチャーが球を投げたあと、球筋がきわどい場合にはコースを確認できるように、上からの視点に自動で切り替わるケースが多いという。今回の日本の放送では、データスタジアムのオペレーターが手動で真上からの視点あるいは真横からの視点に切り替えるという体制を取った。そのため、真上からの視点から真横からの視点へと徐々に回転させながら見せるというメジャーリーグの放送にはない演出が実現できたという。