コンディション管理ツールで指導スキルも向上

コンディション管理というのは、どういったことでしょうか。

神武 選手それぞれの睡眠時間や疲労度、⼼拍数や体温、体重といった⽇々のコンディションデータを⼊⼒し、そのデータを用いてチームや個人での変化の把握や比較に用いる取り組みです。先ほどの⽬標設定・実施・⾃⼰評価のマネジメントプロセスとも関連していますが、⾃分の記憶に基づいて考えるだけでは最適な判断を下すのは容易ではありません。そこで、我々は、エムティーアイ CLIMB Factory スポーツITカンパニー(以下、クライムファクトリー)のクラウドサービス「Atleta」を導入し、スマートフォンアプリから簡単に入力・分析ができるようにしています。こうした仕組みを活⽤してコンディションデータを継続的に記録していくと、例えば睡眠時間が⻑いからこの時期はパフォーマンスが良かった、しっかりケアしたので疲労からの回復が早かったというように、⾃分のパフォーマンスが上下する原因やトレーニング効果などを後から客観的に振り返ることができるようになります。

保科 選手に自ら入力してもらうことで、パフォーマンスの良し悪しの原因を選手自身で把握できるようになり、コンディションに対する意識の向上や、トレーニングのためにいい準備をしてもらうことにもつながります。レース後の分析もより客観的かつ具体的に自分で指摘できる選手が増えたという印象を持っています。

2018年10月に開催された箱根駅伝予選会の一幕。拡声器を手にしているのが、競走部ヘッドコーチの保科氏
2018年10月に開催された箱根駅伝予選会の一幕。拡声器を手にしているのが、競走部ヘッドコーチの保科氏
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Atletaのようなツールを導入することで、指導にはどのような変化があるのでしょうか。

エムティーアイ CLIMB Factory スポーツITカンパニーのクラウドサービス「Atleta」の画面例(図:エムティーアイ)
エムティーアイ CLIMB Factory スポーツITカンパニーのクラウドサービス「Atleta」の画面例(図:エムティーアイ)
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保科 選手たちが入力したデータは私も確認しているので、例えば睡眠時間は十分なのに練習の達成度が下降しているとしたら、ケアの回数をもう少し増やそうというように効果的なアドバイスができるようになりますし、選手とのコミュニケーションにも役立ちます。以前にコーチを務めていたチームでも選手と対話をして指導をしていましたが、より客観的に状況を把握できるようになりましたし、私自身の学びにもつながっていると思います。

保科さんは、名門・日本体育大学でもコーチをされていましたが、日体大時代にはどのように選手のコンディション管理をしていたのでしょうか。

保科 日体大の時には、日々のコンディションを紙に記入して報告をするという形式でした。

 慶應と日体大では選手の数がまったく違います。日体大の選手数は全員で70人ほどで、実力に応じてAからFまでのチームに分けられます。それだけ競争が激しいので、報告をする際に不調を隠す選手も出てきてしまいます。

 一方で慶應は20人ほどで日体大ほど競争は激しくありませんし、自分自身のパフォーマンスを上げるためにAtletaを導入しています。それがチーム全体のパフォーマンスアップにつながっていくという共通理解ができていますので、その点は日体大時代とは異なっていると思います。

コンディション管理ツールは幾つかありますが、なぜAtletaを選んだのでしょうか。

神武 Atletaを運用しているクライムファクトリーとは共同研究という形で取り組みを⾏っています。Atletaは部活動に適した特徴を持っていて、仮にコーチがいなくても、データを蓄積して見ていくことである程度はケガの予防やトレーニングの向上に役立てられます。ですから、慶應のようにコーチやトレーナーが数多くいるわけではないチームには向いていると言えます。また共同研究ですから、我々から何らかの機能を追加して欲しいといったオーダーを出すと応えてもらえるメリットもあります。つまり、ある程度、我々の取り組みにあった利用の仕方が可能になるのです。

 エムティーアイとしても、我々との共同研究を通じて、スポーツチームがコンディション管理のツールを導入し、選手がデータを継続的に入力、そのメリットを享受する、というプロセスをデザインしてその有効性を検証できます。さらに、その難しさや可能性、今後の課題などについて知⾒を得られるメリットもあります。このようなスポーツデータを扱うクラウドサービスは、それを実際に使いこなせるチームや個人が必ずしも多いわけではなく、Atletaを導⼊してもその全てが有効に活用できている、さらに継続的に活用されているわけではないようです。そこで慶應箱根駅伝プロジェクトでは、好事例を生み出せるのではないかと期待されています。