データ活用は社会貢献にもつながる

慶應義塾⼤学競⾛部 ⻑距離ブロックでは、GNSSを用いたリアルタイムトラッキングデータの取得も実施しています。これまでの陸上界には、なぜトラッキングデータを活用する慣習がなかったのでしょうか。

*この取り組みについては「慶應義塾大学、IT活用に託す「箱根駅伝」古豪復活」を参照。

保科 陸上では、例えば最大酸素摂取量などのようなバイタルデータの取得・蓄積は行われていますが、それは選手の状態や能力の把握だけに使われるもので、データをトレーニングに活かすという取り組み自体がありませんでした。トラッキングデータに限らず、データの活用がなされていなかったんです。それは、指導者側が取得したデータをどう使えばいいのか分からないということや、過去のトレーニング方法が正しいという思いが強いからだと思います。

神武 陸上界でデータを活用する習慣が多くない分、慶應がデータ活用に取り組む面白さがあると思っています。先ほども触れたように慶應は推薦入学によるタレント発掘をしていませんから、他校に比べてスポーツエリートのような学生は少ないんです。そうした中で私たちがデータを活用して選手のパフォーマンスを上げることができれば、スポーツエリートではない選手の能力を上げることにもなりますし、その知見は例えば市民ランナーのような方々にも還元できるはずです。一種の社会貢献になるのではないかと考えています。

 その観点で⾔うと、今回のプロジェクトについて我々の取り組みに共感している企業にも協力を頂いています。例えばトラッキングデータの収集・保存に関しては、さくらインターネットのサーバーホスティングサービスを提供して頂いています。元々、人工衛星の膨大なデータの利活用に関する協力関係がありました。さくらインターネットとしても、人工衛星からのデータのみならず、スポーツデータのような様々なデータを扱うことができれば、それが将来の社会貢献につながると考えて頂いたのだと思います。

では最後に、今後の展望について教えてください。

神武 現在の取り組みを今後も継続し、高度化していきたいと考えています。データを数多く蓄積できれば、機械学習などを活用する価値も高まっていきます。慶應競走部 長距離ブロックは、慶應箱根駅伝プロジェクトがスタートしてからは箱根駅伝に出場することを目標にした学生が数多く入部してくれています。そうした選手たちが増える中で、今の取り組みを続けていくことでどのような変化が起きるのか。これからテクノロジーはどんどん進化していきますし、それに伴って我々が活用している手法やツールもより良くなっていくと思いますから、それがどのように選手、チームに影響を与えていくのか、楽しみですね。

保科 これまでの慶應は、競技や自分たちのパフォーマンスについて考える機会が少なかったのですが、現在のような取り組みを続けていけば、選手たちの競技に対する興味も深くなっていきますし、パフォーマンスの向上にもつながっていきます。

 いつまでに箱根駅伝本選に出場したい、という明確な目標はありませんが、2018年度の1年生が4年生になる頃にはある程度形になるようにしていきたいと考えています。