できないことは突っぱねるべきだった

(写真:的野 弘路)
(写真:的野 弘路)
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――ザハ・ハディド氏の複雑なデザインやキールアーチに批判が集まった。

猪瀬:ハディド氏は「アンビルドの女王」と呼ばれていると聞いている。ただ、言葉のイメージばかりが先走っている状態だ。ハディド氏のデザインが本当に実現できないのなら、なぜ今日まで世界的な名声を得てきたのだろうか。実績が残っているからこそ、ハディド氏のデザインは評価されているのではないか。

 世間では2本の巨大なキールアーチがコスト増の要因として槍玉に挙がった。デザインや構造の特徴なので目につきやすいためだろう。ただ、本当に注視すべきはスタンド工区のコストだ。7月7日に示された目標工事費2520億円のうち、キールアーチを含む屋根工区の工事費は950億円だった。一方、スタンド工区は1570億円もかかっている。

 屋根のない一般的な競技場の建設費が、スタンド部分の工事費に当たると考えると、高過ぎると言わざるを得ない。横浜の日産スタジアム(工事費約600億円)と比べても2倍以上となる。この点に疑問を持つべきだ。屋根を除いたスタンド部分なら500億円ほどが適正な工事費ではないのだろうか。

――なぜ、工事費が膨らんでしまったと考えるか。

猪瀬:新国立競技場はスポーツと文化イベントを開催する複合施設として、あらゆる要望が寄せられた。細かな要望は各方面から100以上も集まったと聞く。こうしたリクエストをあれもこれも実現しようとした結果、コストの増大に歯止めがかからなくなったのではないか。

 本来なら「できること」「できないこと」を明確にして、できないことは突っぱねるべき。その役割は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長が担うべきだった。1964年の東京五輪では組織委員会が旗振り役となって、国際的なイベントを成功に導いた。五輪の総責任者は森会長。「上手くいかないな」と判断したら、手を入れて修正する必要があった。

 ただ、森会長からは「国がたった2500億円くらい出せなかったのかと不満もある」との発言が聞かれたように、ああいう感覚では新国立競技場のコスト増加を抑えることは難しかったのだとみている。