縦割り組織の問題は太平洋戦争前と似る

(写真:的野 弘路)
(写真:的野 弘路)
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――計画遂行の責任者が不在となった背景をどうみるか。

猪瀬:責任者が不在で、新国立競技場の建設計画の運営が機能不全に陥ったのは、自由民主党の内部がスカスカになっているからだろう。安全保障法制が党内のメーンテーマになっているため、五輪など協議する部会が機能しなくなっている。党内には政策に通じた実力者が少なくなってしまった。

 拙著『昭和16年夏の敗戦』では、太平洋戦争に突入する前段階で、若いエリート集団が日米の国力の差を分析して敗戦を予見したプロセスを描いた。縦割り組織はそれぞれの実情を隠す。日米開戦前に陸軍と海軍は、石油の備蓄量を明らかにしなかった。情報共有ができないまま意思決定がなされ、ずるずると日米開戦に向かった。

 大きなプロジェクトを前に、追い詰められながら妥協案で意思決定が進んだ過程は、太平洋戦争も新国立競技場も根っこは同じだ。「これまでの損失を考えたら、ここで計画を中止できない」という空気でものごとを決めたら、後にもっと大きな被害が待ち受けている。だからこそ、安倍首相の決めた計画の仕切り直しは「聖断」だと言える。

――再検討される建設計画はどのような形で進めるべきだと考えるか。

猪瀬:責任者不在の体制は改めるべきだ。官主導の無責任体制がコスト増大を招いた。安倍首相が見直しを決断したように、首相のリーダーシップが必要となる。

 これまで新国立競技場の建設計画は競争入札ではなかった。ゼネコンとの随意契約では、工事費について客観的に分析する過程がなく不透明感が残る。人件費や資材費の高騰で、コストが2~3割程度は増加することも避けられないだろう。それでも当初の見積もりから2倍も工事費が膨らむ結果となっては、国民は納得しない。

 設計と施工で予算に合わせてつくるのが仕事。それならば、ちゃんと間に合う実現可能性の高いプランを示してもらわなければ。国際デザイン競技をやり直していては、本当に間に合うか分からない瀬戸際にいる。それならば、これまでの蓄積を生かせばいい。

 安藤忠雄氏が委員長を務めた審査委員会では、ザハ・ハディド案に次いで優秀賞に選ばれたコックス・アーキテクチャーのデザインがある。聞くところによるとコックス案はザハ案と同点で1位。それならば「もう一つの1位」となった設計を前提に、すぐにコストを積算して建設計画を進めれば時間も大幅に節約ができるのではないだろうか。