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本記事は、情報処理学会発行の学会誌『情報処理』Vol.57, No.7に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには情報処理学会の会員登録が必要です。会員登録や全文の閲覧に関してはこちらから(情報処理学会のホームページへのリンク)

背景

 近年、列車の安全に対する要求は、今までの「列車を衝突追突させない」、「列車を脱線させない」というだけではなく、気象状況や踏切の状況により列車を安全に保つことや、保守作業を安全に行うこと、また踏切をより安全にすること(保安度の向上)や踏切の警報が鳴る時間を適正にし、鳴り過ぎないようにすること(警報時分の適正化)が求められている。西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)の中期経営計画においても、「鉄道オペレーションのシステムチェンジ」が述べられ、より高い安全性を目指すことが明らかにされている。

 列車の安全を常に保つということは、列車運行中、いついかなる時でも列車速度を制御する機能が必要条件である。この事項を実現するため、先行列車の位置や設定された進路、進路中の障害事象を集約し、その情報をもとに個別列車が制御を行うことが考えられる。

 これは1960 年代からATC(Automatic Train Control)として実現されているが、レールに制限速度を指示する信号を流し、それを列車が受信し、指示された速度を超えるとブレーキをかけるというシステムであった(図-1)。しかしこのシステムには問題点があった。まず、機器室からケーブルを通しレールまでの配線が必要で、地上システムが複雑になる。次に、速度制限信号が固定であり、ブレーキ性能の一番悪い列車に合わせて信号を設定するため、列車の減速が必要以上に早期に行われる例が多かった。そのため早期に強いブレーキがかかり、運転間隔が広がった。また、早すぎるブレーキにより乗り心地も悪くなった。

図-1 レールに速度信号を送信したATC の例
図-1 レールに速度信号を送信したATC の例
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 この事象を解決するため、階段状ではなく、連続的に速度を制御する「パターン式」のATCが1990年代から実用化されたが、レールを用いた伝送という点は、同一であった(図-2)。

図-2 パターン式ATC の例
図-2 パターン式ATC の例
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 近年、無線技術の進展により、レールによる伝送ではなく、無線による双方向伝送を情報伝送の手段として活用する事例が増えてきた。これによると、レール伝送から無線伝送となるため、レールに装置を取り付けるのではなく、レールから離れたところから伝送できるようになり、その結果工事の容易化と保守の安全性が図られる。また、レール伝送によるATCと比べ、出力が弱く、機器室におけるシステムの小型化も図ることができる(図-3)。

図 -3 JR西日本における無線を活用した列車制御の目指す事項
図 -3 JR西日本における無線を活用した列車制御の目指す事項
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 このように無線によるATCは、世界的に見ても増加傾向にあるが、無線特有の課題である、電波伝搬の安定性の課題や、セキュリティの課題についてしっかりと取り組む必要がある。また、ATCとしての信頼性・稼働率・保守性・安全性(Reliability、Availability、Maintainability and Safety、以後「RAMS性」)の高いレベルの維持管理が必要である。これらのことを十分に認識することが必要である。

 また、今後の少子高齢化にもとづく労働力の減少のため、人的資源の集中化が必要であり、それに伴って信号システムの統合集中化を行う必要がある。これには集中連動化、集中踏切だけではなく、今存在する各種の安全システムの機能を統合し、その基盤となるシステムの開発を行う必要があり、一部の通信による列車制御システムCBTC(Communication Based TrainControl)は、このようなコンセプトを持っているものもある。統合と集中化、共用化も非常な大きなテーマとして鉄道業界では認識されている。

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