2018年10月13日に本土で初めて実施した九州エリアの出力抑制(出力制御)は、同年10~11月の合計で7日間だったのに対し、今年3月には16日間、4月だけで19日間に急増した。最も発電量が伸びる時期に売電できず、事業性低下への危惧や九州エリアでの新規開発を見送る動きも出てきた。海外での出力制御に詳しい京都大学大学院経済学研究科の安田陽特任教授に聞いた。

「出力制御で再エネ導入を増やせる」

今春に入って九電エリアの出力制御が急増しているなか、本来、活用できる再生可能エネルギーの電気がロスになっていることに関し、批判的な見方もあります。

京都大学大学院経済学研究科の安田陽特任教授
京都大学大学院経済学研究科の安田陽特任教授
(撮影:日経BP)

安田 まず、最初に指摘したいことは、再エネに対する「出力制御」という運用手法の必要性と、日本の出力制御に関する課題を分けて考えるべきだということです。

 国内では、九電が初めて本土で実施した出力制御に批判的な声が目立ちます。しかし、太陽光と風力が大量に導入されていく過程で、昼間の軽負荷期に「出力を抑制する」という系統運用は世界的に見ても一般的なことです。一時的に出力を抑制することで、全体として太陽光・風力の導入量を増やせる、というのが共通認識になっています。

「出力制御によって、再エネ導入量を増やせる」という理屈は、九州電力などもここにきて強調していますが、各発電事業者にとって、「年間で最も発電量の伸びる春季に停められてしまうのは痛い」との声をよく聞きます。

安田 その気持ちは分かりますが、日本には、まだまだ多くの太陽光発電所を増やしていく必要性があることを前提にすれば、多少の出力抑制を受け入れることで、2号機、3号機と新たに発電所を建設できることになります。「出力制御は絶対ダメ」というのは、ある意味で既存の太陽光発電所の既得権を主張しているとも言えます。

 それに、2018年度に九電が実施した程度の出力制御で、本当に事業性に大きなダメージがあるとすれば、そもそも当初の事業計画に問題があります。

 日本では太陽光発電事業者は、系統接続に際して30日まで無補償での出力制御を受け入れる「30日ルール」を条件にしています。これは、出力制御率(逸失電力量比率)で約8%に相当します。2018年度の出力制御率は1%に満たないと見られる(インタビュー後に九電は0.9%と公表)ので、まだまだ余裕があるはずです。

 一般向けのメディアなどが、九電の出力制御に対する発電事業者の悲観的な声を、そのまま報道する傾向もあり、出力制御の影響を大げさに捉え過ぎています。