FITと電力自由化を調和させる

――4月から電力小売りが全面自由化になり、再エネ電気にも注目が集まっています。FITによる再エネ促進策と、電力システム改革は、別のものと考えるべきなのでしょうか。それとも連携させていくべきものなのでしょうか。

一橋大学大学院・商学研究科の山内弘隆教授
一橋大学大学院・商学研究科の山内弘隆教授
(出所:日経BP)

山内 これからのエネルギー政策の大きな課題は、電力システム改革のなかで、いかにベストミックスを達成するのか、という点です。その際、大きな問題となるのが、原子力と再エネの扱いです。その意味で、再エネを推進するFITと電力システム改革は、別のものであってはならず、うまく調和させて達成していくべきものです。

 ただ、2030年のベストミックスを決め、その達成を目指すという政策の進め方は、ある意味で計画的な面があります。一方、電力システム改革は、電力業界にマーケットメカニズム(市場原理)を積極的に導入することが大きな目的です。わたしは経済学者ですので、市場原理は重要で、信頼に足るものとの立場です。

――太陽光や風力という自然変動電源を、電力卸市場で扱うことに課題はありませんか。

山内 まさに、そこが今後のポイントになります。これだけ大きな出力変動を系統に受け入れて安定的に使いこなすのは、簡単ではありません。蓄電池や電気で水素など造るP2G(パワー・ツー・ガス)などのエネルギーストレージが低コストで普及するのはまだ先になりそうです。出力変動の吸収には、コストがかかるわけで、何らかの制度的な配慮が必要に思います。

 もう1つは、電力卸市場での再エネの扱いです。欧州ではもともと電力卸市場の規模が大きいこともあり、太陽光や風力も市場でかなりの量が取引されています。電力システム改革の流れのなかで、国内でも電力卸市場で再エネを取引する方向になっています。今後、市場に大量の変動電源が入ってきた場合、攪乱要因にならないか、これも何らかの制度面での対応が必要に感じます。

――再エネの大量導入が進んだドイツなどでは、火力発電所の稼働率が下がり、採算が悪化しています。一方日本では、自由化で火力発電の新設が相次いでいます。

山内 欧州はもともと電力卸市場の規模が大きく、再エネも電力市場で流通させることが多くなっています。その際、燃料不要でほとんど限界費用ゼロの再エネと、燃料が必要で限界費用のかかる火力発電を市場で取引させると、再エネの供給が多いと市場価格を押し下げ、火力発電の稼働率が低下して収支が悪化します。そうなると火力発電所に対する投資が難しくなります。

 ただ、太陽光や風力の出力は大きく変動するので、需給バランスを保つために火力発電は必要です。再エネの増加で火力発電が減ってしまうと、結果的には再エネも受け入れにくくなります。こうした現象はいわゆる「市場の失敗」とも言えます。