固定価格買取制度(FIT)による売電単価が下がり、今後、企業による再エネの調達が太陽光発電推進のけん引力として期待されている。すでに企業と直接、太陽光電力の長期販売契約を結ぶ「コーポレートPPA」のスキームを目指す動きが水面下で始まっている。ただ、再エネ調達の環境価値が国際的な組織から認められるには、いくつかのハードルがある。こうした動きに詳しいCDP Worldwide-Japanの高瀬香絵シニアマネージャーに聞いた。
ESGの「E」を客観評価
世界的に多くの有力企業が、再生可能エネルギー由来の電気を本格的に調達し始めています。その背景には何があるのですか。
高瀬 ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した投資が世界的に当たり前になってきたことがあります。2006年に出された国連責任投資原則(PRI)では、ESGの評価を投資分析や意思決定に組み込んでいます。2018年現在、PRIに署名した機関投資家は世界で約2300まで増え、資産総額は約80兆ドルに達しています。
日本でも2015年に、厚生年金と国民年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名するなど、100近い資金運用機関が署名しています。
そうなると、環境に配慮していない企業には投資資金が集まらなくなります。温室効果ガス削減への取り組みが、企業価値や成長に影響することになります。
金融機関が、こうした投融資先の気候変動対策の取り組みに神経質になってきたのは、2015年12月に締結された国連パリ協定への対応ですか?
高瀬 もちろんパリ協定は大きな影響を与えましたが、社会全体の雰囲気が後押しています。日本にいると、あまり実感がないのですが、米国やアフリカなどでは干ばつなど、気候変動の影響と思われる異常気象が多発し、保険金の支払いが急増するなど、気候問題に対する危機感が日本国内より高まっています。石炭火力へのダイベストメント(投融資引上げ)などがそうした表れです。
そうなると将来的に石炭関連の資産は、いわゆる「座礁資産」(資産価値ゼロ)になる可能性があります。つまり、金融機関にとって、投融資先の気候変動対策を把握することは、経営のリスク管理そのものという認識が一般的になってきたのです。
とはいえ、企業の気候変動対策のレベルを客観的に評価することには限界もあります。環境報告書やCSR報告書では、各社が独自の原単位基準を設定し、その改善幅をアピールすることが多く、他社との比較は容易ではありません。
高瀬 まさにそうした問題意識から発足したのがCDPです。2003年から投資家の署名を受けて毎年、企業に質問書を送付し、そのデータ・分析を投資家に提供しています。当初は35社の署名のもと、245社に質問票を送っていましたが、2018年には650以上の投資家(運用総額85兆ドル)・115社以上の顧客企業の要請で7000社以上が回答しています。
G20の財務大臣・中央銀行総裁からの要請を受け、金融安定理事会(FSB)の下、民間主導で2018年6月に公表された「TCFD」(気候関連財務情報の開示に関するタスクフォース)はCDPを参考にしており、CDPはTCFDの内容をほぼ網羅しています。
