――日本では2030年の電源構成を巡る議論の中で、火力も原子力も必要という議論が続いています。RE100が目指している将来の姿は、企業が再エネ100%になることによって、原発も火力もなくなるような社会ですか。

RE100のサム・キミンス総括責任者
RE100のサム・キミンス総括責任者
(出所:日経BP)

 RE100の参画企業については、目標として再エネ100%を掲げていますので、これらの企業は100%再エネで事業を運営していきます。

 国や地域の電源構成は、もっと大局的な話です。ただ、市場の変化を通じて、こうした全体の電源構成の変化を促すメッセージを送っていくことも、RE100の狙いの一つです。

 地域ごとの電源構成は、現在、急激に変化しています。2年前であれば、電力網に流れる電気の35~40%が再エネになると、安定供給が難しいと言われてきました。ところが、いまや北欧などでは立派にそれを実現し、しっかりと運用できています。

 電源構成については、議論する相手によって意見が異なる状況です。従来の集中型電源を前提とする電力系統で育ってきた技術者に聞けば、再エネの大量導入による電力網の運営は大変だと主張します。IT系の企業、例えば、グーグルやアップルにとっては、大きなチャンスだというように、まったく別の議論になります。

 他の分野での同じような転換期に学ぶべきでしょう。前例として、コダックを紹介します。コダックは、1975年にデジタルカメラを発明した企業です。同社は、2020年頃には、デジタルカメラの市場が大きくなり、数十億米ドル規模のビジネスになると予想し、技術を開発していました。

 一方で、フィルムが既存のビジネスです。目の前のフィルムの事業を守る姿勢をとってしまった結果、2012年に経営破綻しました。市場の動きに対して保守的で、あまりにも動きが鈍かったために招いてしまった結果です。

 電力でも、同じようにめまぐるしい動きが起きています。

 当時のコダックの取締役会は、デジタル化した時の懸念ばかりを主張していました。カメラがデジタル化した時に、撮った写真をどこに、どのように保存するのか、そのための適した手法などのインフラが整っていないなど。それならば、安価で持ち運びやすいフィルムを作ることが先決だと主張していました。

 しかし、現在は解決できていない技術でも、需要があれば追いついてきます。大きな需要さえ確信できれば、多くの企業が取り組み、必ずイノベーションが起きるのです。

 現実に、オーストラリアにおいて、石炭火力が6基、閉鎖に追い込まれました。イーロン・マスク氏の取り組みによって、蓄電池がどんどん配備されていったからです。

 英国ではすでに、補助金なしでも、蓄電池を併用した再エネ電力が、ガス火力や石炭火力よりも市場で有利な状況です。

 現時点では、石炭火力は、ベースロード電源として良い投資先かもしれません。しかし、今後5年も経てば、博物館行きの代物になっているのではないでしょうか。