雑草害のほか、虫害や獣害も
伊藤(操) 光合成で造られた栄養分は、多年生茎と主根に蓄えられ、その栄養を基に毎年春から新茎と節根が伸び、占有面積を拡大させます。地中にある主根は、長さ1.5m、最大径32cmにもなったという報告もあり、大量の栄養分を保持しています(図5)。葛粉はこの部分を何度も水に晒して抽出します。
フェンスなどに絡んで上ってくるツルは、こうして地中に蓄えた栄養を使い、多年生茎の節から伸びてくる新茎です。3年生茎を持つ個体では、多年生茎が320m、新茎が1471mだったとの報告もあり、地下部はその3~5倍と言われます。
管理手法については、後ほど詳しく解説しますが、地上部の茎や葉だけを刈り取ったとしても、地中には膨大な栄養分が残っており、栄養繁殖によって、また伸びてきます。
クズによる太陽光発電所への被害としては、小型パワーコンディショナー(PCS)の吸排気口からツルが入り込んで停止させたり、フェンスに絡みついて網目を埋めた状態で強風を受け、倒壊した事例があります(関連記事)。クズの繁茂による環境影響被害には、どのようなものが知られていますか。
伊藤(幹) クズの繁茂による影響としては、雑草害のほか、虫害、病害、獣害、人身被害、生態系被害が挙げられます(図6)。
雑草となったクズの繁茂に最初に悩まされたのは林業です。もともとクズのあった里山にスギやヒノキを植林したため、一度刈り取っても、再生して植林木をマントにように覆ってしまうことが多く見られました。そうなると日照を遮るだけでなく、重みで枝を痛めたり、蒸れて病気が発生したりします。
また、クズが宿主などになっている害虫には、マルカメムシやマメコガネ、コウモリガなどがあり、これらは農園芸作物やサクラなど緑化樹などに被害を与えます。生活圏でも、クズから飛来するカメムシの悪臭、クズ群落を好むハエや蚊の病菌媒介昆虫の問題などが考えられます。
日本に生息する大型哺乳類、イノシシ、シカ、ノウサギ、タヌキ、サル、クマなどはクズを好んで食べます。そのため、こうした野生動物を引き寄せる恐れがあります。近くに人家があれば、生活圏に呼び込んでしまうことになります。
クズによる直接的な人的被害では、ツルに足を取られての転倒のほか、除草作業中における作業者の傷害事故があります。傾斜地に繁茂する難防除雑草であるクズを人力で刈り取ることは作業者への負担が大きいのです。