「未稼働案件」対応は経産省に“理”

井上 もう一つ、政策当局が読みきれなかったのは、山林を切り開いてまで太陽光発電所を開発する事業者が出てくることだったのではないかと見ています。

 再エネの潜在可能性(ポテンシャル)に関するさまざまな調査の例がありますが、こうした調査では通常、山林を太陽光発電の用地の対象に含めていません。普通には設置できないような場所を、太陽光発電の用地として使うことは、予想できなかったと思います。

 後から考えれば、もう少し念入りに想定した制度でスタートすべきだった部分はありますが、こうした予想外の動きを想定して制度を設計するのは難しいでしょう。

 制度開始時には予想できなかった、こうした動きに対して、経産省が事後的に実施してきた取り組みについては、制度的に可能な範囲で最大限に対処していると思います。

 とくに最近、長期未稼働案件に対して強い対応を打ち出しており、発電事業者の反発が相当にあると聞いていますが、どちらに理があるかは、明らかと思います。

FITによる太陽光の大量導入で、良くも悪くも、再エネがメディアなどで取り上げられることが増えました。

三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部 スマートコミュニティグループの寺澤千尋研究員
三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部 スマートコミュニティグループの寺澤千尋研究員
(撮影:山本祐之)

寺澤 もう一つのFITの功績は、再エネの認知度が上がり、発電事業を営んでいるかどうかに関わらず、国民の多くが再エネを自分に深く関係あるものとして考えるようになったことです。今後、日本のエネルギーの姿をどのようにするのか、国民の多くが考えるきっかけになったことは良いことです。

 負の部分のもう一つは、市場の姿がいびつになってしまったことです。FIT本来の目的は、継続的な市場を形成し、その中で市場原理が働いてコストが下がっていくことにあります。しかし、これをうまく実現できず、40円/kWhや36円/kWhといった初期の高額な買取価格の案件が過剰に多くなってしまい、いびつな市場になってしまいました。

 現状でできることで重要なのは、いまのFITの枠組みの中で、できる限り健全な市場を維持しつつ、20年間の買い取り期間が終わった後にも、発電事業者の多くが再エネ発電事業に魅力を感じ、発電事業を続けていく環境を整えることです。

 最近では、国民負担を減らしていく観点から、買取価格を引き下げていくことを強調した議論が多い状況です。この視点ばかりでなく、再エネを本当の主力電源に育てていくために必要な課題に対して、政府が本気で引っ張っていくという姿勢をしっかり見せることが、いま必要なことの一つだと感じています。

 国に本気の姿勢が見られれば、再エネ事業者が開発意欲を持ち続け、コスト削減も進んでいくと思います。