2030年の再エネ目標は十分か?

国の姿勢に関し、必ず話題になるのが、「エネルギー基本計画」の見直しで2030年のベストミックス(理想とする電源構成)における再エネ比率を22~24%に据え置いたことです。もう少し伸ばした数値、例えば30%などに引き上げてもらえれば、国の「本気さ」が伝わってきて、開発意欲を維持でき、低コスト化も進むという声をよく耳にします。

井上 2030年や2050年、さらに長期的に見たときに、再エネを主力電源化していくのであれば、まずどの程度の量を求めるのかという共通認識が必要です。

 例えば、2050年の定量的な電源構成の議論はまだ始まっていませんが、一方で政府は、「2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減する」という目標を掲げています。

 2050年の電源構成の定量的な議論を、いま始めることの難しさは理解しています。それでも、2050年までの温室効果ガス排出量の削減目標を考えれば、電源構成の中で、非化石電源がどの程度の比率で必要になるのか、おおよその数値は予想できるはずです。

 温室効果ガス排出量の削減目標を実現するには、排出係数から見ると、現状の約0.5kg-CO2/kWhから、おそらく約0.1kg-CO2/kWhといったレベルに引き下げる必要があります。これを満たすために、再エネがどの程度必要なのかを逆算すれば、2030年の時点で必要な再エネの電源構成の比率が分かります。そうした観点から、果たして、現在の数値で本当に十分と言えるのかどうか、そろそろ本気で議論する必要があります。

 非化石電源といったときには、原子力が絡んでくるために、議論しにくいことはわかります。しかし、現在の社会状況から、2050年に向けて原子力を大幅に増やそうという情勢に変わることは、なかなか予想できません。そう考えると、2050年やその先に向けて、再エネはより多く必要になると予想できます。そのイメージを持って、2030年の目標を見たときに、本当に十分なレベルなのかということです。

 この議論が難しい状況はわかりますが、逃げてはいけないと思います。

再エネの中のベストミックスも今後、議論していくことになります。「太陽光発電はもう十分ではないか、別の電源をもっと伸ばしたほうが良いのでは」という指摘をよく聞きます。

井上 太陽光発電は、場所によっては、まだまだ導入を促す必要があります。2050年やそれ以降の長期的な視点で見ると、設置可能な場所は残っています。例えば、住宅や商業施設などの屋根の上には、まだまだ太陽光発電を導入できる余地は多いと見ています。発電した電気は、できるだけ自家消費していくというモデルです。

 一方で、出力数十MWといった大規模な太陽光発電所は、もうほぼ開発され尽くしたと感じています。こうした超大型の太陽光発電所は、日本の国土面の制約を考えると、開発に限りがあります。

寺澤 現在の日本の風力発電は、陸上で開発しやすい場所、系統連系しやすい場所で先行して導入されています。系統の制約によって停滞していますが、そこが解消すれば導入量が増えていくでしょう。

 加えて、風力発電には、太陽光発電に比べて、技術開発の余地が残っています。風車自体やメンテナンス技術、さらに洋上風力では浮体式などさらに大きな開発の余地があります。こうした技術面の進化によって、導入がより加速していくポテンシャルがあります。

 とは言え、海外で風力発電が多く導入されているのに比べて、日本ではそれほど普及が進んでいないのも確かです。その背景には、気象条件や土地の制約などの理由があり、諸外国のようなレベルで風力の導入を描くのは難しいかもしれません。

 日本では現在、太陽光発電への反発が強まっていますが、太陽光発電は設置のしやすさ、メンテナンスのしやすさ、設置場所の自由度が圧倒的に優れているので、日本における再エネの主力になるのは必然に思います。

三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部の井上裕史・低炭素ソリューショングループリーダー
三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部の井上裕史・低炭素ソリューショングループリーダー
(撮影:山本祐之)