FIT後の再エネ電源の存続に危惧
エネルギー分野には「技術自給率」という視点があります。例えば、太陽光パネルでは、住宅用では国内メーカーがブランド力を生かして一定の市場を確保できていますが、メガソーラー(大規模太陽光発電所)では、国内メーカーの製品を採用する例が少なくなっています。
井上 そうした状況は認識しています。一時期は、国内のメガソーラーへの融資に関して、金融機関が国内メーカーの製品を採用していることを融資の条件にする傾向がありましたが、現在は海外メーカーの製品を採用した発電所にもファイナンスを提供しています。
もし、欧州と同じような時期にFITがスタートしていたら、中国などの海外メーカーがいまほど強くなかったので、日本メーカーももう少しがんばれていたかもしれません。でも、最終的な結果は、あまり変わらなかったようにも思います。
これは、太陽光発電所が、他の発電に比べて、比較的簡単に作れてしまうことに理由があります。差別化もしにくく、家電と似たような傾向にあります。
太陽光パネルを並べ、パワーコンディショナー(PCS)に入力すれば発電でき、「発電する」という以上の価値が付きにくいのです。
こうなると規模の経済となり、多くの量を安く作れる企業が勝ち残っていきます。こうした状況は、遅かれ早かれ訪れただろうと思います。
海外メーカー製の発電設備で占められた場合、何か問題が生じる可能性はないのでしょうか。火力や原子力発電でも、欧米の老舗企業と組んで日本の大手重電メーカーが作るなど、国内メーカーが多く関与してきました。
井上 太陽光発電の場合、メンテナンスも既存の電源に比べると容易です。このため、アフターサービスで高収益を上げる事業モデルも成り立ちにくい特徴があります。アフターサービスで高収益を見込める市場であれば、納入を重視する事業モデルが成立しますが、既存の電源とは、この点でも異なります。
寺澤 海外メーカー製の太陽光パネルの採用について、一時期よく言われていたのが、「メーカーが経営破綻したり、事業を停止したりしたら、その後の保証やメンテナンスなどはどうなるのか」という点でした。
しかし、そうした懸念よりも、価格などにそれ以上の魅力を感じて海外メーカー製パネルを採用する発電事業者が多かったのが実態でした。どこに問題を感じ、その問題をどこまで重く見ているのかによって、変わってくる点です。
井上 日本の太陽光発電所にとって、海外メーカーによる保証やアフターサービスの不透明性よりも、国内の発電事業者の意識として、発電所を適切に維持し続けたり、FITの買い取り期間の終了後にも発電事業を継続してくれるのだろうか、という点の方に危機感を持っています。
FITが始まるまで、発電事業に縁のなかった事業者が建てた太陽光発電所が、買い取り期間が終わった後に、どのようになるのか、というリスクの方が大きい気がします。
主力電源になるのであれば、FITの買い取り期間が終了した後に、発電事業を止める事業者が多く出てきて、国内の太陽光発電所の合計出力が急に減るといった事態を避けなければなりません。
でも、どこまでの発電事業者が、FITの買い取り期間の終了後も発電事業を続けていこうと考えているのか、心もとない状況があります。日本のエネルギー政策上のリスクは、こちらの問題の方が大きいと思います。
寺澤 日本メーカーに関しては、蓄電池を使った統合的な制御や、仮想発電所(VPP)といったデマンドレスポンス資源を最適に活用するシステムなど、より高度なシステム技術分野で成功できるチャンスがあり、期待しています。
こうしたシステムでは、必ずしも国内メーカー製の装置や資材ばかりが使われるとは限りません。モノ売りではなく、カギとなる制御ノウハウで勝負するような戦略が求められます。
