自然界のゆらぎを再現
体が都市ストレスを感じる理由の一つが、「常に一定の刺激を受けること」と石川氏は話す。例えば、1日に浴びる光を考えると、都市部は照明を使って常に一定の明るさが保たれているのに対し、自然界では時間とともに太陽光の強さが変化する。過去の研究から、人は1日中同じ光の中で暮らすと体調を崩すことも分かっている。つまり、一定の刺激が与えられる空間よりもゆらぎが生じる空間の方が人は心地良く過ごせるというわけだ。
そこで、モデルハウスでは音や匂いのゆらぎを取り入れた。ディフューザーで森の香りを漂わせ、川のせせらぎや鳥のさえずりの音を流すことで森の音を再現している。屋内外問わず、植栽をふんだんに取り入れ、森の中にいるような緑視率10%の空間も実現した。
さらに、モデルハウスには住民の心を落ち着かせるために暖炉を設置した。実は、人の目は、静止している物を見る際に固視微動と呼ばれる眼球運動を行う。これは、網膜上に同じ映像が映り続けることがないようにするためだという。暖炉の火のように動いている物を見ている時はこの眼球運動をしなくて済むため、静止している物よりも「動いている物を見ている方が人はリラックスできる」と石川氏は説く。焚火の火を眺めていると心が落ち着くように、家の中に暖炉を設置することでリラックスを促す狙いだ。
都市部に住むことで、心が感じるストレスにも着目した。都市部は近隣住民との関係が希薄で孤独を感じやすい。石川氏によると、孤独を感じることは喫煙や飲酒の習慣よりも健康を阻害するという。そこで、1階の開口部を広くし、地域の人が入りやすくつながりが持てるようにした。