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“トロイの木馬”でがんを攻撃

 スマートナノマシンの実現に向けて、片岡氏らはかねて、がんなど特定の標的だけを攻撃するドラッグデリバリーシステム(DDS:Drug Delivery System)を開発してきた。親水性と疎水性の高分子を自己組織化させて作るナノサイズのカプセル(高分子ミセル)に薬剤を包み、これを患部に送り込んで治療効果を発揮させる。

 特に力を入れてきたのが「抗がん剤内包高分子ミセル」の開発だ。抗がん剤を包む高分子ミセルを巧みに設計することで、がんに対する攻撃力を高め、副作用は抑える。

 設計上のポイントとなるのが、高分子ミセルの直径。ウイルスと同等の30~100nmに設計する。正常組織の血管の隙間は通れないが、がん組織の血管に特有の大きな隙間は透過するサイズだ。これにより、がん組織だけに薬剤が集まるようにする。がん組織に届く前に異物として排除されることがないように、表面は「ステルスポリマー」と呼ぶ高分子で覆う。

 がん組織に届いた高分子ミセルは、内包する抗がん剤を放出。がん組織では正常組織よりもPH(水素イオン指数)が下がっており、これに反応して高分子ミセルが壊れ、内部の抗がん剤が放たれる。高分子ミセルが“トロイの木馬”のようにがん組織に入り込み、攻撃する仕組みだ。

 このDDSでは、効果を高め副作用は抑えられることに加え、従来は治りにくかったタイプのがんにも対応できると片岡氏はにらむ。転移したり、薬物耐性を獲得したり、薬剤が届きにくい部位にできたりしたがんだ。がんの増悪や転移において中心的な役割を果たすとされる、がん幹細胞への効果にも期待を寄せる。

 抗がん剤内包高分子ミセルは、いくつかの企業が開発を進めている。実用化に向けて、複数の臨床試験が進行中だ。